秘密請負人
□chocolate or birthday?
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そして明日はいよいよバレンタイン。
亜矢は重い空気を醸し出す香の顔を覗き込む。
「あげなよ。テストの度にお世話になってるじゃない。」
うぅっ、と少女は呻く。
確かに補修やら血液提供やらで世話になっているのは確かだ。
しかし、ゴミ箱行きと知っていてチョコを渡すなどという勿体無いことはしたくない。
だからといって誕生日プレゼントを渡すのも、何かバイトという身分に相応しくないような。
そんなことを考えていたために、香は未だに明日の準備をしていなかった。
――だって、誕生日プレゼントなんて、私がアイツに惚れてるみたいじゃない。
「うー」
そんな声を出して机に突っ伏す香を亜矢は見下ろして、ため息をついた。
「じゃあ、どっちもあげれば?」
心底どーでもいいという風に親友は窓の外を見ながら言う。
「そんなことしたら、私がアイツのファンみたいじゃないっ!絶っっっ対いや!!」
柚介は何だかんだ言いながらも香からのプレゼントなら喜んで受け取るのではないかと、亜矢は予想しているが、
そんな未来予想、香にはできるはずもなく。
「「はぁぁー」」
別々のことを思いながら二人の少女はため息を吐いたのだった。
次の日、
香にとっては考えたくもなかったバレンタイン当日。
放課後の化学準備室はいつにもまして賑やかだった。
あーもう、これじゃあ化学準備室に入れないじゃない。
今日もやはり隣の教室で隠れるように女の子たちが去るのを待つ香。
抱える鞄には淡いグリーンの包みが一つ。
もちろん、柚介用だ。
……なかなか帰らないな。
未だに渡そうか渡すまいか迷っていた香は、段々といらだちの方が大きくなってくる。
帰ってしまおうか、と扉に近づいた瞬間、がらりとそれは開けられた。
目の前には端正な顔を歪めた柚介。
「なにやってんですか、早坂さん」
「いやいやいや、こっちのセリフですけど!?」
隣の準備室からはまだ女生徒数人の声が聞こえる。
まだ乙女たちは帰っていないのに。
まさか、
「逃げてきたんですか」
と、香は呆れたように柚介を見た。
悪びれる様子もなく、柚介は極上の笑み。
「授業を受け持ってもいないクラスの子たちだぞ?……いい加減疲れた。」
口調が素に戻ってますよ、先生。
「おっと、僕としたことが」
「だから心の声を読むなって(焦」
なんだか精神的に疲れてきた香は、近くにあった椅子に腰をおろす。
柚介は壁に寄りかかって腕を組んだ。
「ところで、その包みは僕へのプレゼントですか?」
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