秘密請負人
□―愛情と束縛―
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『―愛情と束縛―』
放課後、既に外は暗い。
明かりのついた化学準備室。
早坂香(はやさかこう)はいつものように変態教師こと、日高柚介(ひだかゆうすけ)のバイトをやっていたのだが。
「〜〜痛い痛い痛いっっ!(泣」
「なんです?だらしないですね。せっかく手本を見せてあげているというのに」
「もう無理です!…ッ、ごめんなさぃぃッ」
椅子に腰掛けていた香はあまりの痛さに、椅子から崩れ落ち、自分が掃除した綺麗な床に突っ伏した。
柚介は待ってましたと言わんばかりに、さっきまで香が座っていた椅子に陣取る。
「さ、手本を見せてさしあげたんですから、次は早坂さんの番ですよ?」
くっそぉぉ〜…
この性悪め!
柚介を睨みながら肩から腕をさする。
今日は、入試の会議やら何やらで柚介の機嫌が悪かった。
それで、疲れていた教師はバイトに肩もみを頼んだのだが、普段の鬱憤が溜まっていた彼女は、ざまぁみやがれと喜んだ。
もっと疲れればいいと、
『手本を見せてくださいよ』
と言ってしまったのが運の尽き。
このありさまだ。
思いっきり力込めてやるっ!!
しかし、柚介の肩に手をかけるが、
……力が入らない。
「せ、先生のせいで手に力が入りません(泣」
「早坂さん、ファイトっvv」
白々しいわっ!!!
「あぁぁ、なんか、肩だけじゃなくて、手までじんじんするんですけど!?」
眼下で脚を組む柚介。
後ろから見ているため、その表情は見えないが、十中八九、底意地の悪い顔をしているのだろう。
「早坂さん、はやくはやく」
「………待ってください。」
香は手を開いたり閉じたりしている。
結局は柚介に逆らえないのだ。
肩揉み続行。
再び肩に手を置いて、今度こそ力を入れると、本当に肩が凝っていた。
……疲れてんだなぁ。
柚介は息を付いて俯く。
だらんと力を抜いて身を任せる。
細い髪の毛が重力に従って下へと揺れた。
しばらくすると、段々肩が柔らかくなってきた。
「ありがとうございました」と、柚介が香を解放した瞬間、柚介のケータイが音をたてた。
いいかげん手が疲れていた香は、安堵の息。
画面を見つめる柚介を見やれば、ますます機嫌が悪くなっていた。
「早坂さん」
「何でしょうか」
絶対、こき使われる!
もしくは苛められる!
覚悟していた香であったが、
「もう遅い時間ですので、今日は帰っていいですよ」
んん!?
「な、何か企んでるとか…」
「失礼ですねv」
「疲れすぎておかしくなったとか……」
「ひどいですねv」
あからさまに、香の表情が明るくなって、柚介は苦笑する。
香は鞄を掴んで、ドアの前に走ってから、
柚介を指をさした。
「あとから苦情は受け付けませんからね!!」
捨て台詞を残して去っていったバイトを思い出して柚介が笑いを堪えていると、扉をノックする音が聞こえた。
「やぁ、元気にやっていたか?」
入ってきたのは、柚介の客であり、友である人物だった。
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