秘密請負人
□彼女の苦悩
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あんなに格好いいのに、香ってば惚れないのかしら。
職員室でのことを思い出しながら、斜めの方にある香の背中を見つめる亜矢。
すると、香は教師が板書をはじめたタイミングで、亜矢の机に手紙を投げた。
『今日、どこかでお茶してかない?』
亜矢は柔らかく微笑む。
これだから、香は可愛い。
いつだって、自分より他人を優先してしまう。それも無意識に。
おそらく今も、亜矢の寂しさを感じ取ってしまったのだ。
優しい香。
口はちょっとばかり悪いけれど。
香が日高先生を好きになる?
いや、むしろ日高先生が香を好きになるんじゃないかしら。
放課後、香はちょっとした用事が職員室にあるらしく、亜矢は下駄箱のそばで待っていた。
「おや、菅野さん、早坂さんを待っているんですか?」
噂の化学教師がなにやら資料を抱えて歩いてきた。
「日高先生!……はい、そうなんですv」
「早坂さんなら、もうすぐ来ると思いますけど…」
そういっていると、なにやら階段のほうからズルズルと物を引きずる音が。
「あ!早坂さんv」
「え」
亜矢は驚きでカバンが肩から落ちてしまった。
そこには、香、ではなくて、
模造紙がいた。
模造紙が歩いているようにしか見えない。
まるまってある模造紙が何本も何本も固まって、此方に歩いてくる。
「こ、香?」
「あやぁー(泣)」
模造紙のロールの数が多すぎるため、抱えたうちの何本かは下に抜け落ちて、床で引きずっている。
「早坂さん、何故か僕を手伝ってくれるってきかなくて。どうしても、と仰るから手伝っていただいてたんですよv」
「この、しょうわr「さぁさぁ、菅野さんが待っているんですから、さっさと運んでしまいましょうか。」
香が何か言いかけた気もするが、化学教師の笑顔が輝いていたので、どうでもよくなる。
「まっててねー」と言い残し、教師と一緒に歩いていく香。
その背中は、教室で見るよりも幸せそうに見えて。
これも無自覚?
くすり、と笑みをこぼしてしまうが仕方ない。
――まってるよ。
あなたが私に秘密を話してくれるまで。
それまで香のことで、あれこれ詮索したり苦悩してしまうかもしれないけれど。
――香が可愛いのだからしかたない。
Fin