秘密請負人
□―未来と反抗―
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『―未来と反抗―』
…来なければ良かった。
早坂香(はやさかこう)は落ち込んでいた。
長机が四角に並べられ、ホワイトボードが上座の方に置かれている。机には、高校生達が席に着いていて、ホワイトボードの脇に立っている一人が、彼らの発言を次々と板書していく。
会議室のような、場所、雰囲気。
いや、正真正銘、会議室で、会議なのだ。
菅野亜矢(すがのあや)に誘われて、市内の高校生が集う、ボランティアグループに香は参加してみたのだ。
亜矢には「軽い気持ちでいいから」と言われたものの、この雰囲気は軽くはない。
そう感じているのは、自分だけなのだろうか、と心配になる。
まわりでは、最近行われたボランティア活動の報告がされている。
それについての様子と改善点、そして自分の意見。
「では、燈華学園の代表者さん、おねがいします。」
そう言われて、隣に座っていた亜矢が、すっと立って話を始める。
その様子は、物怖じも感じられなかった。
「…―ですから、私はあの施設に今後行く場合は―…」
亜矢が堂々と発表している間、香はどうにもいたたまれない気持ちになっていたのだった。
……やっぱり私には無理だよ…
亜矢には悪いけれど、ボランティアグループに所属する話は無かったことにしてもらおう、と香は考えた。
けれど、自分より下の学年の子が、自分よりも大人っぽく見えてしまって、プライドが香を悩ませる。
話し合いが終了すると、
「この前言ってた、ケーキ屋さんにいこうよ!」
と亜矢が言ってきた。
いつもの、自分と同じ目線の亜矢に安堵しながら、
「うん、行こう!」
と香は答えた。
駅前の、大きなビルの中にあるおしゃれなケーキ屋に、香達はいた。
丸いテーブルと椅子が並んでおり、店内は白を基調にした清潔感のある内装だった。
運ばれてきたケーキをフォークでつつきながら、他愛もない会話が続く。
そう言えば、と亜矢が思い出したようにして、
「香は日高先生が好きなの?」
と、いきなり聞いてきた。
うっ、と紅茶を吹き出しそうになる。
「なっ、何言ってんの!?」
ちがうちがう、と必死に否定する。
あんな性悪変態教師に惚れてたまるもんですか、と内心で言えない文句を吐く。
「そう?何か最近やたらと化学準備室にいくから…」
にやにやと亜矢は口元を緩ませる。
「違うって。ただ単にアイツに使いぱしりにされてるだけ(怒」
つまんなーい、と親友は残念そうにするが、あんなヤツとつき合えるのは余程の強者しかいない、と確信する香。
窓の外が暗くなってきたので、会計を済ませて店をでる。
ビルの外へ出たとき、
「その制服、燈華学園だよね?今帰りなの?」
と、大学生くらいの男二人が声をかけてきた。
「はぁ…」
となんだかよくわからない返事をしてしまって、後悔した。
「良かったら、このあと一緒に遊ばない?」
げ、やっぱりナンパか…
亜矢と香は、思わずうんざりとした心境を顔に出してしまう。
「え、嫌なの?奢ってあげるよ?…ね、いこうよ!」
しかも、たちが悪いらしい。
きっぱり断ってやろうと思ったとき、香達の後ろから、
「ごめん、僕たち、これからダブルデートなんだ。」
綺麗なアルトの声が、答えた。