秘密請負人

□その理由は
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次の日、始業チャイムと同時に教室へ駆け込む香。

みんな席に着いてはいるが、教師は来ていない。
ほっとして、自分の席へ向かう。

友達の数人が「おはよう」と声をかけてくれることに安堵する。


……なんで今日に限って寝坊するかな。


がらり、と変態教師が教室へ入ってきた。

そう、一時間目は化学だ。


「起立、礼、着席」
と、授業が始まった。



目の前で、爽やかに授業を進める柚介。クラスメートに、こいつは変態で性悪だと教えてやりたいと思う香。

自分に対する柚介の態度に、すこし理不尽さを感じて、むぅ、と頬をふくらました。



授業が終わりかけたとき、

「何か質問は?」
と問う教師。

それはもう、にっこりと。

その笑顔に惚ける女子生徒達。
そのなかの一人が手を挙げて、

「先生、彼女は?」
と、授業とは全く関係ない質問をした。

このやり取りは、今までの柚介の授業で数回あったが、柚介は曖昧な返事をするのみだった。


「ははは、それは答えかねますが……最近ペットを飼い始めましたよ。」

誰も聞いてませんって、そんな事。

「…ですが、その子は人の血を舐めるのが好きみたいで、困ってるんですよね(笑」

「!?」

思わず柚介を睨む。

それは明らかに私の事ですよね!?


ぇえー、なにそれ、と生徒が笑うなか、

柚介は香に視線を移し、


一瞬、


にやりと、


笑いやがった。






放課後、今日も柚介に呼び出された香は、授業のときの文句を言ってやろうと決意する。

やられっぱなしでたまるか!
少しは文句も言ってやらねば…!!


意気込んでいると、親友の亜矢がやってきて、

「なんか……香ってば、最近いきいきしてるよね」

その言葉はかなり意外で。

「え、そうかな」

うん、と頷く亜矢。
香には心当たりがない。


「今日も呼び出されてるの?」
「うん(泣)
やだよー、亜矢と帰りたい…」
げんなりする香に、親友は羨ましがるばかり。

今日も変態教師にいじめられるのだと、彼女は知らない。
いや、言っても信じないだろう。


はぁ、と溜め息をついて化学準備室へ向かった。










「授業中に変なこと言わないでくださいよ!…寿命が縮むかと思いましたよ!?」
準備室に入るなり、香は文句を言ってやる。


「あはは、だって本当の事でしょう?」

にこにこしながら、柚介はおいでおいで、と手招きする。


むすっとしながらも、香は椅子に腰掛ける柚介のそばへ寄った。


柚介は引き出しの中からカッターを取り出し、

ネクタイとシャツの釦を何個かはずして、


自らの首に、カッターの刃をあてた。



「餌の時間ですよ。」




つう、と血がにじむ。



急激に喉が渇いて、与えられるその血を舐めとった。





ああ、と香は理解する。




親友にも言えない、この秘密を、


誰かに受け止めてんもらう、





その喜びを。




Fin
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