秘密請負人
□―出会いと仕事―
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『―出会いと仕事―』
終業ベルの明るい音。
早坂香(はやさかこう)は脱力していた。
「な、なんで赤点なのよう!?」
あんなに頑張ったのに…と香は肩を震わす。
今回…化学は、あの教師に馬鹿にされるだろうことを予測して頑張ったのだ。
一学期の点数があまりにもひどかったため、赤点にはならないよう、一番力をいれたのにも関わらずこの結果。
青ざめていると、背後からひょいと親友が顔を出して、香の手に握られて若干しわくちゃになった化学のテストの答案用紙を覗いてきた。
「あらら、また赤点とったわけね」
とニヤニヤしながら今度は香の顔を覗く。
「うぅ、ニヤニヤするな!亜矢!」
親友…菅野亜矢に馬鹿にされながら、帰りじたくをしていると、校内放送がかかった。
ピンポンパンポーン
『二年生の早坂香さん、至急化学準備室まで来てください。』
香の顔色がさらに青くなる。
あ
アイツ…早速呼び出しやがって…!!
背後には黒いオーラが見えなくもない。
「いいなー(笑)あの格好いい先生と2人っきりvv」
亜矢の言葉に勢いよく振り返る…鬼の形相で。
「あれを格好いいとは何事!?みんな騙されてる!!」
まぁ、確かに顔はいいのだ。顔は。
性格に難がありすぎる化学教師の顔を思い浮かべて香は落胆した。
「あー、香は授業態度とか点数もアレだから、先生も鬼にならなきゃいけないのよv」
何を言っても多分無駄なのだ。
ヤツの猫かぶりは見抜けない。自分ですら夏休みまで知らなかったのだから。
はぁ、とため息を吐いてまた答案用紙を眺めると、見事にバツがいっぱいある。
自分では今回の出来はいいとおもったんだけどな…。
「香!さっさと行きなさいよ。先生様がお待ちかねよ(笑)」
か
考えたくもない…
きっと過去最高にバカにされる…!!
香は恐る恐る、化学準備室へ向かう。
廊下はサッカー部が筋トレをはじめていたため、通りづらくなっていた。
腹筋をしている部員の間を通り抜けるのは、けっこう難しい。女子生徒はもちろんスカートな訳なので、いちいち部員の足側をえらんで通る。
そのうちのひとりが香に声をかけた。
「おまえ呼び出されてたよなー(笑)ま、頑張れ!」
同じクラスの相川だった。相川はサッカー部で、女子の人気は熱いが、香や亜矢とは中学からの付き合いのため、お互い遠慮がない。
「うっさい!」
と言いながら、頭を叩いて通り過ぎる。
化学準備室は北校舎の三階角部屋。
渡り廊下を抜け、少々湿っぽい雰囲気の廊下をすすむと見えてくる準備室のプレート。
ドアの前に立ち、一息吐いて、ノックをした。