short novel

□clap
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『狸。』



「………先生」
「……」
「狸寝入り…?」
化学準備室に来てみれば、教師は椅子に腰掛けたまま、背もたれに身体を預けて目を閉じていた。
――本当に寝てる。
恐る恐る肩をつついてみても、何の反応も示さない。
伏せられた睫毛は長く、均一のとれた美しい顔、身体。
夕焼けに染まる教師は、神々しいようにさえ思えた。
「…綺麗」
思わず口に出して、恥ずかしくなる香。
一人で頬を朱に染めている自分が何やら情けない。
「これで性格さえ破綻してなければ」

寝ている柚介にむかって、嫌みを言えば、何だか気分がよくなって、ついつい調子に乗る。
「変態、性悪、腹黒、ドS」
悪口をならべてみても、目の前に眠る神様は目を覚まさない。
「……職務怠慢。」

「ずいぶん言ってくれますね。」

のわぁぁあ!?(焦

柚介は目をあけて、香へにこりと微笑んだ。
それはもう、悪魔もびっくりの黒い微笑みで。

「ぉ、お、起きてたんですか!?狸寝入りですか!?聞いてたんですか!?」
さっきまで調子に乗っていた女子高生はどこへやら。
一気に顔は青ざめた。

「最初から起きてましたよ?」
ひぇぇえっ(泣)

しかし、香はあることに気付いてさらに焦りはじめた。

もしかしなくても「綺麗」って言ったの聞いてた…!?

その焦りようを見た柚介は、何かを悟ったらしく含み笑いを浮かべる。

「早坂さん、"綺麗"って何のことです?もしかして僕ですか?」
「違います、夕焼けです」
即否定。

口を割ったら一生弄り倒される。
それ以前に神様みたいだと思ったなんて、恥ずかしすぎて言えるわけがない。


とりあえず、今日は柚介にこのネタで虐められるのが確定して、香はため息を吐いたのだった。


おわり。



柚介をどこまで変態にしようか悩む今日この頃。
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