short novel
□sherbet*honey
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暗い夜道には虫の音しか聞こえない。
深夜の人気のまるでない土手道、瀧川瑞希(たきかわみずき)はかつがれていた。
文字通り、長身の男の肩に。
「うぇぇぇー、きもちわるいー。」
瑞希はばしばしと男の背中を叩くが、男は面倒そうな顔をするのみ。
147センチという小柄な瑞希は肉付きも悪く、19歳には見えない容姿をしている。
もちろん軽いので、男は何の苦も感じずに歩き続けていた。
「うくっ、う、は、はきそ」
涙声で訴えた瑞希の言葉に、男は流石に焦ったのか肩からおろしてやった。
降ろした瞬間、瑞希は草村に頭を突っ込んでえずく。
その小さな背中を見る男は呆れたようにため息をついた。
ようやく済んだのか、顔を上げた瑞希は男を見上げる。
目は吐いたおかげで潤んで、その上暗い夜道でうっすらとしか男の顔は見えない。
しかし、酒の飲みすぎでぼんやりとしか働かない頭でも、目の前の人物が知り合いではないことが理解できた。
「しっかりしろ」
へたりと座り込んでいる瑞希にそう言った声。
記憶を漁っても思い当たる友人はいないのだ。
氷柱のように冷たく尖った物言いだった。
「……だれぇ?」
ぽかんとした顔で。
大きな男と小さな女。
それが二人のはじまりの夜。