捧げ物・頂き物
□不機嫌と笑顔
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柚介が返事をする前に入ってきたのは、理事長の九条輝(くじょうあきら)だった。
「おや、子猫ちゃんはいないのか。」
入ってくるなりそんなことを言ってきたので、当然柚介は九条を睨みつける。
「入ることを許可していないんだが、九条?」
「小さいことを一々気にするなよ。…なんだ、せっかくホワイトデーのお返しを持ってきたのに。」
こいつも貰っていたか…と内心毒づきたい気持ちだったが、順もいるのでこれ以上はやめておくことにした。
いつもならば、香はとっくに準備室にいる時間なのだが、今日はどこかで寄り道しているのか、まだ来ない。
そんなに広くはない準備室に、こうも男3人が集まると、息苦しいものである。柚介も九条も遠慮しておきたいシチュエーションなのだが、順は特に気にならないようで、さすが天然と言ったところだ。
「そういえば、柚介はバレンタインに子猫ちゃんから貰ったのか?」
「僕がもらわないで誰がもらうんですか」
「…おまえな…」
自信過剰を素でいく柚介に、九条は心からため息をついた。なんだかどっと疲れて、近くにあった椅子に
腰掛ける。
「あんなにこき使われてるのに、上司だから渡さなければならないなんてな……あげなくてもいいのに、健気だな、子猫ちゃんは。」
「失礼ですね。大事に大事にしてるじゃないですか。」
「お前のは方向性がずれてるだろう。」
九条の言葉を鼻で笑って返すと、柚介は順に向き直った。
「この人との会話は不毛なので、織部くん、相手をしてくれますか?」
「え…、俺そんなに話得意じゃ…」
「いいんですよ、理事長より断然楽しいですから。」
「おいおい、柚介…」
と、その時ノックもなしにガラリとドアが開けられた。
そこにいたのは香で、両手いっぱいにお菓子の包みを抱え、はしたないことに、足で器用にドアを開けたところだった。
柚介は呆れて、「早坂さん…」と呟く。
香も、柚介だけならまだしも、そこに順と九条がいたのは予想外だったらしく、若干頬を赤らめて、「あれ…、みなさんお揃いで…」と間の抜けた声で言ったのだった。
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