捧げ物・頂き物
□不機嫌と笑顔
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彼女にはいつも、振り回される。
『不機嫌と笑顔』
その日、最初に訪ねてきたのは、香と同じクラスの織部順(おりべじゅん)だった。
「日高先生、早坂さん来てませんか?」
「いえ、今日はまだ来てませんけど…どうしました?」
順は表情があまり変わらないのでわかりづらいのだが、よく見るとかすかに変化することを日高柚介(ひだかゆうすけ)は知っていた。
「ちょっと渡したいものがあって…教室にはもういなかったので日高先生のとこかなと思ったんですけど…。ここで少し待っていても構いませんか?」
「もちろん、構いませんよ。」
今日は終業式で、明日からは春休みに入るため、渡すものがあるならば、確かに今日のうちに渡さなければならない。
しかし、柚介は「渡すもの」と聞いて、心当たりがあった。なぜなら今日は3月14日、つまりホワイトデーだからだ。
「もしかして、織部くんも早坂さんからバレンタインに貰ったんですか?」
「あ、はい。といっても早坂さんと菅野さんとか女子数人がクラスの男子全員に配ってくれたんです。」
柚介は、内心呆れてため息を吐きたかったのだが、順が嬉しそうだったので、ぐっとこらえた。
多分、お返しを期待してのプレゼントですよ、ということは胸にしまっておく。
柚介も香からもらってはいたが、義理チョコをそんなにばらまいていたとは知らなかった。
香をいじめ倒したい気分になるが、本人がいないので我慢することにする。
「そういえば、期末テストは良く出来ていましたね。少し難しめに作ったんですが、織部くんにはやられてしまいました。」
「難しかったですよ。特に最後の問題、すごい迷ったんですけど、あれが合ってたのでよかったです。…あの問題配点高かったし」
今回も学年首位を維持した順だが、香は相変わらず化学の点数が悲惨だった。それでも前に比べれば点数は上がったほうなのだが。
そんなことを話していると、またノックの音が聞こえた。
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