捧げ物・頂き物
□ひなたぼっこ
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他でもない、彼女だから愛しいんだ。
『ひなたぼっこ』
どうしてこうも、間が悪いんだ。
俺はそう思いながらも自分の仕事に少なからず誇りを持っているので、言葉には出さなかった。けれども大事な彼女との約束の時間はとうに過ぎている。
時計を何度も確認してはため息をついた。
心は焦るばかりだが、電車は時間通りに運行している。きっと隣のサラリーマンは俺のため息の多さに舌打ちしたいところなんだろう。さっきから苛ついた視線を感じる。
それもそうだ、こんな綺麗な晴れの朝に、ため息ばかりの男の隣になったら、俺も欝な気分になるだろう。しかもこれから仕事に向かうってんなら、なおさら。
駅に電車が着く前に席を立ち、扉が開くのを待った。
――アパートについて7時30分か…。微妙なところだな。
彼女が家を出る時間はいつもそのくらいだ。
会えるか会えないか…。
本当ならば昨日の夜に会って、2年目の記念日を迎えるはずだった。患者の容態が悪化さえしなければ。
患者は朝方になってようやく落ち着き、一安心したところだ。
市の総合病院に努めて数年。まだまだベテランの医師にはかなわないけれど、免許を持っているのだから、甘いことは言ってられない。
それは大学の後輩で、アパートからさほど離れていないところにある薬局に務める彼女もわかってくれている。
わかってくれているのだけれど、恋愛は単純じゃない。
彼女が不安がるから?いや、そうじゃない。俺が不安なんだ。
彼女に愛想を尽かされるのが怖くて、気合が入ってしまうのだ。
案の定、半同棲のアパートに、彼女は既にいなかった。