捧げ物・頂き物

□林檎飴の誘惑
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そんな香の不安をわかってはいたが、柚介は別のことを考えていた。

堤燈が照らす道には、燈華学園の生徒でなくとも、香と同じような年頃の男は大勢通る。

浮き足立った男の視線は当然着飾った女へと向かうもの。

肩までの短い髪を上げ、和柄の髪留めでまとめた香へと視線を落とす。
露にされたうなじは白い肌と黒髪の間にグラデーションを作り、華奢な身体の線も、桃色の頬と唇もすべて、無自覚にもその色香は男を誘うには十分だった。

当然道行く男は香に視線を止めるが、次に隣に立つ柚介を見てそのまま素通りしていった。

その様子を目の端で見ていた柚介は、それを鼻で笑いながらも、何故か苛立ちを覚える自分自身に困惑する。



「先生!林檎飴買ってくるね!」

そんな思考を断ち切るように元気のよい香の声が聞こえたかと思うと、次の瞬間には多くなってきた人込みの中に香の姿は消えてしまっていた。

「まったく、これだから…」

頭が痛い、と柚介はがくりと肩を落とした。
はぐれるなと言っておいたにもかかわらずすぐにはぐれた香を、後でどのように苛めてやろうか考えながら、林檎飴の店を探す。

苛々は増すばかり。

しかし無自覚な少女をそのまま放っておくのは危険な気がするので、やはり探すしかないのだ。

歩いていると女達から声をかけられるが、笑顔と無視で道を進む。
見目は麗しいが声をかけてくるような自分に自信のあるような女性には特に興味もわかなかった。



右側のクレープと焼きそばの店の向こうに「林檎」の文字が見え、急ぎ足で向かえば、やはり林檎飴の店だった。

そしてすぐに赤い林檎飴を持った香を見つけ安堵する。

が、香に声をかけようと思った瞬間、人込みが開き、香と数人の男子が楽しげに話しているのが目に飛び込んできた。

柚介の気分は一気に下がる。
苛立ちはその時点で頂点に達していたが、自然と身体は動き、

香の手を取っていた。

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