捧げ物・頂き物

□トライアル
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『トライアル』



大きなため息。
早坂香(はやさかこう)は鉛の如く重い足を化学準備室に向けていた。


それは一週間ほど前の定期考査から始まった苦しみだった。


勉強はしていたが、お決まりのように赤点をとってしまった香。

テストの内容は香にとって難しい内容ではあったが、他の生徒にはそうではなかったらしく、平均点は高かった。
いつもより再試験を受ける人数が少なかったが、あろうことか再試験でもまずい点数をとってしまったために、再再試験は香一人だけになってしまったのだ。

それも性悪教師が担当する化学の試験であるから余計に気分は重くなる。



もう一度ため息を吐いてから、いつの間にか辿り着いてしまった準備室の扉に手をかけて開いた。


今日は再再試験の二日前。


「教えてさしあげますよ」と、美しく微笑んだ教師の顔を思い出して、恐怖が蘇る。

化学担当教師自ら勉強を教えてくれるのはありがたいのだが、それはあの性悪教師でなかったらの話で。

全力で断りたい香にはもちろん拒否権などないので、結局柚介に教わることになってしまった。



化学準備室には既に日高柚介(ひだかゆうすけ)が来ており、自分の椅子に座って頬杖をついて、入ってきた香をにっこりと笑んだ。


――果てしなく嫌な予感…(泣)。

いつもより威圧感のある柚介に、今すぐ帰りたい気持ちでいっぱいになるが、

「早坂さん」

呼ばれると、身動きすら出来そうになかった。




促されるまま、いつもは柚介が使っているデスクにノートと教科書を広げ、隣に座っている教師に視線を投げかける。

すると今度は早くしろと言わんばかりに睨む教師。

怖じ気づいて先に進まなければ、さらなる恐怖が待っている気がしたので、香はわからなかった練習問題のページを開いた。

「…あの」

「なんです?」

「この化学反応式、どうしてこの答えになるかさっぱりなんですけど…」

「ああ、これですか。……わかりにくいところなので授業中に詳しく説明したはずなんですけどね、早坂さん?」

聞いてませんでしたとは言えず、黒く綺麗に微笑む教師に苦笑いで返すと、柚介はため息をつきつつも丁寧に解説をする。


「――なので、ここはこの答えになるんですよ。」

「あ、なるほど!――じゃあ、こっちの問題は――」

「そうです。あってますよ、この数字以外は。」

「ぁあ!?間違えてるっ」

ごしごしと消しゴムで消していると、柚介が見覚えのあるプリントを出した。

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