捧げ物・頂き物

□君の瞬き
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そもそも香の経験値の少なさは施設育ちに由来するものだ。

…仕方ないじゃないか。

そう考えて、はたとあることを思いつく。


柚介は女性にあまり興味がないと言っていた。
恋人がいる様子もない。
むしろ副業や秘密収集が恋人と言えるだろう。


――もしかしてコイツもあんまり経験ないんじゃあ…?


ニヤリとする口元を押さえて、香は鞄の中身をあさる。
そしてあるものを取り出した。


「せんせー」

「なんです?」

「疑わしいんなら、コレ、やりません?」



そう言って柚介の目前に突き出したのは赤い箱。あまりにも有名すぎるお菓子、ポッキーだ。

「は?」

「ポッキーゲームですよ」

恋愛経験の少なさを馬鹿にされたのも理由の一つではあるが、それよりも柚介の焦る顔が見れるのではないかというのが大きい。


「早坂さん、浅はかなことを考えてません?……顔がニヤついてますが」

おっと、あぶねぇ。

「いやいや、単に馬鹿にされたのが許せないだけですよ。」

ホホホ、と香はわざとらしく笑って赤い箱から包みを取り出す。

「まさか先生ともあろうお方が恥ずかしいから嫌だとは仰いませんよね?」

そう言った香に、柚介はなにやら納得して、意地悪く笑った。
「なるほど。……そういうことか。」

柚介は香の手からポッキーの包みを奪い取り、一本だけ取り出して、

「そういうことなら受けて立ちましょう。そうですね……3センチでどうです?そこまで出来たら早坂さんの勝ちということで。」

その一本を口にくわえた。


香の手には無意識に力が入り、持っていたポッキーの箱を握りしめることになった。


――ま、負けるものか。


「も、もちろん、いいですともさっ」

おかしい日本語で答えた教え子兼バイトの少女に、柚介は艶やかに笑みを浮かべた。


なんで一々こんなに色っぽいんだ、と香は内心焦ってしまう。

女友達とふざけてやったことがあった香は、ポッキーゲームにたかをくくっていたのだ。――それまでは。

しかし、ここまでくれば引くことはできない。




香は柚介に近づいた。


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