捧げ物・頂き物
□wish
2ページ/10ページ
広がる綺麗な洋式の庭園。
ありえない、
としか言いようがなかった。
今日は元日。
早坂香(はやさかこう)は初詣に来たのだが、変態教師こと日高柚介(ひだかゆうすけ)と、偶然会ってしまった。
それだけならまだ良かった。
*
*
*
*
*
これは30分ほど前のこと。
「なんで先生、こんなとこに」
「なんで…とは、何故です?今日は元日なんですから、初詣に来るのは普通じゃないですか。」
いや、あんたが神様にお祈りする姿が思い浮かばないんだけど、
という突っ込みは喉に留めておく。
日高柚介は香の通う燈華学園の化学教師だ。
しかし、彼は同時には"秘密請負人"でもある。
人の秘密に関わるトラブルを専門に解決する職業だ。
勿論、本職は高校教師なのでそれは副業…というより趣味だったりもする。
香はとある事情により柚介のもとでバイトをしているのだ。
「もうお参りはすませたんですか?」
柚介は高そうなロングコートを身に纏い、ディープレッドのマフラーを口元を隠すように首に巻いていた。
くそ、本当に容姿だけはいいな、コイツ。
「おかげさまで、まだ済んでませんよ。」
ちょっと睨みつけるように見上げれば、柚介はそっけなく背中を向けて、
「じゃあ、一緒に行きましょうか。早坂さん、若いくせに友達と来たようでもないですし、僕もまだ済んでないので、一緒に行ってあげますよ。」
と、横顔で皮肉げな笑みを浮かべた。
「亜矢が風邪引いちゃって、一人で来るしかなかっただけですよっ」
決して友達が少ないとかではありません、と一応釘をさしておく。
やはり、今日は人が多く、並んでお参りの順番を待つ二人。
やっと順番がきて、用意していた百円玉をお賽銭箱に投げ入れた。
しかし、隣の人物は千円札を一枚入れやがった。
――今年はこの変態教師のパシりにされる回数が減りますように!
香は、ふう、と一息ついて、柚介を見れば、ちょうど柚介も終わったらしく顔をあげた。
神社からでて、少し歩いたところで、香は気になったことを聞いてみることにする。
「先生、千円札なんて入れて…なにお願いしたんですか」
柚介はニヤリと笑う。
「もちろん、去年よりも多くの秘密と巡り会えますように、とお願いしましたよ?」
げげ
香は激しくげんなりした。
香が顔を上げた瞬間だった。
目の前の景色が
ぐにゃりと歪んだのは。
.