秘密請負人

□chocolate or birthday?
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そわそわ。
クラスメートは14日が近付くごとに、雰囲気が華やかになっていく。

年に一度、大事な人に想いのカタチを手渡す行事、バレンタイン。

好きな人がいる女子はもちろん、男子も貰えるかどうか気になるところ。
浮き足立つのは当然と言えば当然なのだが。

ここに、その日が近付くごとに顔色が悪くなる者が、一人。

「ねーぇ?香は日高先生にあげないのー?」

「その話題には触れないでぇぇっ(泣)」

早坂香(はやさかこう)は、親友である亜矢に潤んだ瞳を向けた。

バレンタインは好きな人にチョコをあげるだけが全てではない。お世話になっている家族、友人にチョコを渡すのも、日本の慣習であるから困ったものだ。

しかもその次の日が、あの性悪教師の誕生日というのがまた問題だった。


******

遡ること一週間。

そのときはまだ、香は柚介にも一応義理チョコを渡す予定だった。

放課後廊下を急ぎ足で化学準備室へと歩いてきた香は、扉の前に立った瞬間、中から女性特有の高い声が聞こえてぴたりと動きを止めた。

またか…。

うんざりしながら、準備室ではなく隣の教室に滑り込む。

最近はバレンタインも間近ということで、女生徒が柚介のもとへやってくることが増えた。

甘いものは好きですか?
生徒からのチョコは受け取りますか?

乙女の可愛い質問攻めにあう教師。

その教師はいつもの如く胡散臭い笑みで対応しているのだろうと、容易に想像できてしまうから笑える。

しかしこの状況は香にとっては厄介以外の何ものでもなかった。

何故なら、毎日のように化学準備室に通っていることが噂にでもなってみれば、香の学園生活は暗雲に覆われることになる。

それ程人気があるのだ、柚介は。

廊下から人が出て行く音がして、香は注意深く教室の外へでる。

すぐに化学準備室を覗いて、柚介以外いないことを確認すると、ため息をつきながら室内へ入った。


「遅いじゃないですか、早坂さん。」

「誰のせいですか、まったく。」

鞄を椅子の上に置きながら、香は呆れた顔で柚介を見る。

とぼけている教師はなんだか機嫌が悪そうで。

「……疲れてるんですか?」

とばっちりを食らうと解っていながらも香は聞いてみた。

「えぇ、まぁ、……出来の悪いバイトが手を煩わせるので。」

悪かったなっ


「いや…、毎年ながらこのバレンタインの時期は疲れるんですよ。」

「エセ笑顔を振りまくのに?」

「わかってるじゃないですか」

あーぁ
可哀想な女の子たち。


柚介にチョコをあげる少女たちを不憫に思いながら、柚介を横目で見た。

「別にいいじゃないですか、もらってあげるくらい。」

「ゴミ箱行きでも?」

あ、あんたってヤツは…!!




「……誕生日が15日だなんてバレたら今の比じゃないな」


ぼそりと呟かれたその言葉。

香が悩みはじめたのはそれからだった。

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