秘密請負人
□―愛情と束縛―
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俺は知らない。
こんな醜い感情は知らない。
それが自分に向けられていることは、知っていたはずなのに。
こんなに醜くて、酷くて、憎らしくて、それでいて愛しい。
己に向けられた、剥き出しの感情。
毎晩のように自分を触っていた、
血管の浮き出た甲、
皺のよった指、
唯一の人の、その手。
嫌悪の対象であったはずのものが、姿を変えていくのを感じて、身震いした。
それとも、変わったのは自分自身?
くしゃりと髪に手をうずめて、
そこでふと、
憎むべき人の癖が移っていることに気が付く。
時間は巻き戻せない。
けれど、
そう、
何かを残していくのだ。
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