■呪いの王子■

□Chapter 2
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「サニアン様、街の煙が見えました。あと5km程です」
トゥレイシーは日除けに右手をかざしながら言った。
「少し休みますか?」
無言で横を歩くサニアンには到底見えない距離だ。
「んや…いい」
前の街で買い込んだコートを着込んだ彼は、フードを取ると頭を掻いた。
僅かに降り積もった灰色の雪が、枯れ木だらけの大地を更に憂鬱に見せている。
二人は黙々と進んだ。

死んだ兎が落ちている。
うっすらと、小さく残った獣の足跡がサニアンの脳裏に焼き付く。
彼は乱暴に足でその跡をかき消した。
トゥレイシーが自分を気にしているのがわかる。
今は、何を見ても駄目だった。
理由も無く、雪のように灰色だった。


かつて故郷では雪が積もると、サニアンの妹は必ず彼の部屋に小さな雪だるまを飾った。
溶けるとまた持って来て飾る。
彼女は気がすむまでそれを繰り返していた。
そして持ってくる度に雪だるまの飾りや表情を変え、サニアンに笑いかけた。
それは歳の離れた兄に対する、精一杯の彼女の歩み寄りだったのだろう。
サニアンは別れる瞬間にすら、その小さな妹を抱きしめる事もしなかった。
見つめてくる瞳に、返す言葉さえ無く…。
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