他校

□ブリュレ
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俺と名無しさんは、とあるデザートを二人で囲んでいた。

「これが、くれ…ク、クリー…」
「クレームブリュレ」
「それ!」

名無しさんは、絶対セレブの食べ物だよーとか言いながら、物珍しげにスプーンで、それをつつく。
俺はその様子を、コーヒーを啜りながら眺めていた。


クレームブリュレ。
フランス語で「焦がしたプディング」という意味を持つ。その名の通り、普通のプディングのカラメル部分が、焼いてあって固い。が、その下には、柔らかくて、とろっとした濃厚なプディングが隠れているというデザートだ。

俺はいつまでもスプーンで表面をつついている名無しさんに言う。

「食べへんの?」
「えっと…忍足の分がくるまで待ってる」
「冷めてまうで」
「大丈夫!ほら、プリンって普通冷たいし」

などと言っているうちに、俺のクレームブリュレが運ばれてきた。

俺が、カラメルにスプーンを入れて、形を崩していると、名無しさんが食い入るように見つめている。

「…食べへんの?」
「食べる!食べる!」

名無しさんは慌てて、スプーンを持って、彼女のブリュレと格闘し始めた。
「食べ方、わからへんのなら素直にそう言えばええやんか」
「…うるさい」

少しは素直になれや。
俺は、心の中で溜め息を吐く。

「あ…美味しい」

やっと一口、スプーンを運んだところで、彼女が漏らした。

「やろ?」
「こんなの食べたことない。プリンを焼くなんて信じられなかったけど…跡部の言う通りだ」
「百聞は一見にしかずやろ」
「うん。でも、この味はセレブの味ね。そんなにしょっちゅう食べれるものじゃないな」
「俺んとこ来たら、いつでも食べられんで」
「んー…そこまではいいや。これも美味しいけど、やっぱりプッチンプリンの方が、あたしには合ってる」

そう言いつつも、名無しさんは、スプーンを口に運ぶ手を止めなかった。


俺は、自分の手元に残るクレームブリュレを見ながら思う。

このデザートは、名無しさんのようだ。

表面は固い殻で覆われていて、その殻を破れば、きっと甘くて濃厚なクリームが現われるだろう。
俺は、そのクリームを味わってみたかった。
でも、いくらモーションをかけても動じない。
目の前のクレームブリュレと違って、カラメルの層は思った以上に厚くて、固かった。

「忍足」
「なんや?」
「食べないの?」
「…あぁ、もうええわ。名無しさん、食う?」
「いいの?交換条件とかないよね?」
「なんでこれぐらいで出さなあかんねん」
「だよね!いただきまーす!」

嬉しそうに俺の分を食べ始める名無しさん。

ほんまもんのクレームブリュレはあんな簡単に崩せんのになぁ…
彼女の鉄壁のカラメルを崩せる日はいつになるやら。

俺は、コーヒーを啜りながら、思いを馳せた。




*END*
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