□実は君を好きだったり、好きじゃなかったり
1ページ/2ページ





蛾ヶ丸くんの横で蛾ヶ丸くんの口から吐き出される紫煙は空気に溶けてじょしょに色を無くす、でも匂いは確かにあってアタシの鼻を突く
そんなタバコを吸う姿を見ていた

蛾ヶ丸くんの人差し指と中指に挟まれたタバコはもうずいぶんと短くなってしまっているくわえられては離され、火を点けられて焦がされて終いにはその火を捻るように消される
そんなされるがままなタバコになにを思ったか自分を投影した


(まるでタバコは自分のようだ──‥)

一本のタバコを蛾ヶ丸くんが吸い終わるのに掛かる時間は5分もない、その間の時間は長くも短くも感じるいつ感じても不思議な感覚だ

だから、そのタバコをくわえて吸いながらすましている顔を崩してやろうと声をかけた

「アタシは蛾ヶ丸くんのこと大っ嫌いだ」

弾かれたように彼は顔をこちらに向ける、蛾ヶ丸くんの視線とアタシの視線とは深く交わる
蛾ヶ丸くんの顔は驚きと疑問に染まっている

「急になにを言い出すんですか貴女は‥‥」
「嫌いなもんは嫌いなんだよ‥‥」

じり、とタバコに点いた火は確実にタバコを燃やし尽くそうとその火の手を彼へと近づけている

アタシはそんな風になりたくない!
蛾ヶ丸くんは好きだ。愛してる。
じり、じり、とアタシの心が燃えていくように熱い
だからこそタバコが燃え尽きたときに蛾ヶ丸くんがするように捻るように消される絶対に勘弁だ!

「アタシはそんか惨めな思いしたくなんかねぇ!」
「一度点けられた火が燃えて自身が火傷するのが嫌だからとか消されるのはうんざりだ!」
「アタシは─‥!アタシは─‥!」

喉が痛い、胃が引っ掻き回されるように引きつり身体中が強ばる
頭がぐるぐると回り回りが歪んでいく

「絶対にそんな風にならない!いや、なってなんてやるもんかよ!!」

「志布志さん。」

アタシは蛾ヶ丸くんの思ってることを理解するほど洞察力とかに長けてはいない。でも今の蛾ヶ丸くんはアタシが癇癪を起こしたかのように喚き散らす姿を見てられないとでも言いたげにアタシの名前を呼ぶ

「志布志さん‥‥」
「アタシはもう捨てられたくないんだよ」
「貴女には私がいますよ。昔も今も──‥‥きっとこれからもずっと──」

じくじくと心臓が体の臓器全てが火傷を負ってしまったかのようにじんわりと甘い痺れに晒される
視界の端で音も立てずに燃え尽きたタバコの灰が床に落ちた


実は君を好きだったり、好きじゃなかったり


本当は構って欲しかっただけなんだ、ただそんな気持ちが暴走してわけのわからないことを口走ってしまった‥‥




おわり
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ