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□Song for you
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「…ね〜え、ユチョン…?」

「あ…?んだよ…」


蒸し蒸しした暑〜い日の夜。

窓を開けても動かずにいても、暑い。

ただでさえ気温も高いのに、ここのところ梅雨に入ったせいか雨続きで

暑いうえに湿度は高く、洗濯物もなかなか乾いてくれない。

おまけにユチョンと借りた安部屋に、エアコンは備え付けられていなかった。


「…やっぱ買うべきだったかなぁ、エアコン…」

「今更だろ。節約しなきゃいけないから買わない!っつって宣言したの、どこの誰だよ」

「ぅ…。僕、だけど…」


ユチョンをあの店から連れ出して、二人で都心から離れたところに部屋を借りた。

当時は僕もユチョンも仕事がなかったから、部屋を借りるだけで大変だったし

何より収入のアテもないのに家具や家電を揃えるのは気がすすまなくて

本当に必要なものだけ買い揃えた。


結果今は二人とも仕事を見つけて働いてるし、少しの貯金もあるのだからエアコンくらい、とは思うんだけど…


「あ〜あちぃ」

「うん、暑いね…それならさ〜あ?」

「あ?」

「その……離れ、たら……?」


壁に凭れて座る僕の太ももに、頭を乗っけて

ほとんど裸に近い格好で団扇を扇ぐユチョン。

お互い仕事を詰めるだけ詰め込んでるから、休みが合うのは一週間に一度あればいい方。

その休みには決まって、ユチョンは僕から離れようとしない。

どんなに暑い日でも、だ。


「…嫌だって言ってんの?」

「そんなこと言ってないけど…」

「じゃあいいだろ」

「……あい。」



…本当は知ってるんだ。

その団扇、自分よりも僕の方に風があたるように扇いでること。

それに…


「ね〜ユチョン?」

「なんだよさっきから」

「ユチョンてさ〜あ?…結構甘えん坊?」

「……ぅるせっ…」

「あ、やーだやーだ!扇ぐのやめないでよ〜!」

「知るか!自分で仰げ!」

「も〜…」


甘えてくれるのが嬉しくて、ニマニマしながら聞いてみたら、少しだけ顔を赤らめてそっぽを向かれてしまった。

男らしくてカッコいいのに、たまにこんな可愛いところも見せるユチョン。

そんなところも、本当に好きだな なんて思ってしまう。


「…っ」

「へへ…」


団扇で扇ぐの、手伝うフリして そんなの嘘。

キスしたくなっただけ


少し膨れた頬に唇を落としたら、ちょっと驚いたように振り返った。

そしてまたなんでもない風に、僕を下から見上げながら団扇を扇ぎ始める。


「…シフト、少し減らさねぇ?だいぶ安定してきたことだし」

「…それって僕といたいから?」

「…悪いか?」

「…んーん。店長にシフト、相談してみるね」


暑い日も寒い日も、こうしてユチョンとくっついていられたらいいな。

ユチョンのこんな可愛いところ、僕だけで独り占めしてやるんだから。


「やっぱエアコン買うか」

「え…?!」

「このままじゃ二人して湯立っちまうぞ」

「そう…だけど…」


(団扇で扇ぎっこするの、楽しかったのに…)


「暑くても寒くても、ジュンスと離れる気なんてねぇけど?」

「ぁ……」


考えてること、丸わかり。

ユチョンはやっぱり、僕よりも二枚も三枚も上手 みたい…。

ユチョンから団扇を取り上げて、熱の上がった自分の顔に風を送ったのだった。




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