銀色の時、流れて T
□少女の失ったもの
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自分でも何をしているのかロー自身、よくわからなかった。
ただ『殺して』と言われムカついた。
自分の命が尽きていない事実を目の前にした少女の顔を見て嘲笑ってやりたかった。
けれど自分を見る少女の瞳がだんだんと悲しげになってゆくのを見て、ローはなんとも複雑な心境になった。
「死を選ぶには…お前は若すぎるんじゃねぇか?」
「…………」
掴んでいた彼女の腕から手を離しながらローは口を開いた。
グレーの瞳が自分をじっと見つめていた。
「『助けてやったんだ』なんて恩を売ろうなんざ思わねぇ…ただしばらく俺にその命預けてみないか?」
「…………」
ロー自身、偶然助けた正体も名前もよくわからない少女をこんな簡単に受け入れてしまう事を心の中で嘲笑った。
ここは海賊船…。
力もなく戦えない女をこの船に乗せる事、それは自分自身…そしてクルー逹…さらにはこの船全体の負担となる事はわかっていた。
けれど気がついた時にはローはその少女に手を差しのべていた。
ただ、その悲しげな瞳を見ていられなかった。
彼が話しかけている間も、少女から感じるのは怒りの感情だった。
彼女は自分が許せなかった。男と同じ空間にいるという事実が…。
そして死ねなかった現実に失望していた。
「…………」
「お前を襲ったあいつらは…俺が殺した」
「…………!!?」
彼の言葉を耳にした瞬間、少女は瞳を見開いた。
彼の言葉は、ただローに対しての怒りが増えただけだった。
──山賊は殺す事が出来たのに、なぜ自分を殺す事はしなかったの?
──願いを叶えてはくれなかったの?
そう思えば思う程、目の前の男が憎らしかった。
怒りと悲しみ…それから絶望に支配される。
『じゃあ私も殺してよ!!』
「…………」
『殺せなかったんなら、あのままゴミのように転がしておけばよかった!わざわざこんな事までして……』
「お前…なに言って……」
彼女が怒りをぶちまけ始めた瞬間…ローの顔色が変わった。
そのまま少女に手を伸ばし、その喉に片手をかける。
そのあまりの俊敏な動きに少女は言葉を飲んだ。
──息の根を止めてくれるのだろうか…?
そう一瞬でも彼女は期待した。
彼の顔と少女の顔の近さは、わずか数センチ。
まっすぐローは少女の瞳を見つめる。
やがてゆっくりとローは彼女に問いかけた。
「お前……声は、どうした?」
「…………」