銀色の時、流れて T
□少女の失ったもの
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──ダルい、身体も痛い
──でも起きなくちゃ…
そう心の中で呟いた少女はゆっくりと瞳を開けた。
小さな窓から入る陽射しが眩しくて眉間に皺を寄せる。光に慣れてきた瞳に映るのは見慣れない天井だった。
「…………」
「起きたか、随分寝ていたな?」
「………ッ!?」
ぼうっと天井を見つめていた彼女に突然掛けられた言葉。
突然聞こえたそれに驚いた少女はビクりと身体を震わせた。身体が動かない為、ゆっくりと顔だけ声の聞こえた方へと向ける。
意識を失う前に見た男がそこに居た。
部屋の隅に置いてある椅子に腰掛け、膝の上には分厚い本。
「…………」
「…………」
少女は目の前の男…ローの姿を確認するとそのまま睨み付けた。
『殺して』という願いを叶えて貰えなかった為だ。
「死ねなくて辛いか?」
「────」
ニヤリと笑い、分厚い本をパタンと閉じながら彼は問う。
少女は返事をする事はなくただ唇を噛みしめた。
それからゆっくりとベッドに横たわる自分の姿を確認した。
包帯だらけの身体…腕には点滴…。
見事に自分の意思は無視されたのだと少女は理解し、深いため息をひとつつく。
そのまま彼女の細い指先は、反対の腕につながっている点滴のチューブに伸びた。
躊躇する事なくそれを掴んで引き千切る。
「…………!!」
…はずだったがその手はタトゥーだらけの腕によって止められた。
あまりにも一瞬の事だったので少女は瞳を丸くして驚く。
いつの間に彼は自分のそばにいたのだろうか?とただ戸惑った。
自分の腕を掴んでいる彼の腕を見る。それから目の前のローへとゆっくりと視線を移した。
大きな手…。太すぎる事のない程よく筋肉のついた腕や肩。
小さめの顔…鋭い瞳…その瞳の下にはうっすらと隈。
先程まで彼が座っていた椅子を見れば、長い刀が立て掛けてある。
『この男は、ただ者ではないのだ』と少女はすぐに理解した。
死ぬ事も…この男のもとから逃げる事も出来ない自分の状態にため息をついた。
自分はなんて面倒な男に拾われたのだろう…と。