Vitaminもの2
□君の横顔に告げるmessage
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いつからだったろうか。
この日が近づくと夢を見るようになった。
幼い自分を笑顔で見つめる母親。
『お誕生日おめでとう、翼』と抱きしめてくれた母親。
(母親からのその言葉が、プレゼントが、嬉しくて仕方がなかった)
与えられた部屋の中でドアが開く音を聞いて一喜一憂する幼い自分。
玄関ドアが開いて、そのまま誕生日プレゼントを持って自分の部屋に入って来た誰かに『お誕生日おめでとう』と言ってもらえると期待していた自分。
(『お誕生日おめでとう、翼』と抱きしめてくれる母親は、もういないのに)
自分の誕生日など誰も認識していなかったのだと悟った小さな自分。
何のために生まれて、どうしてここにいるのかがわからなくて小さくうずくまっていた自分。
(自分が自分じゃなくても、何も変わらないのだと、意味がないのだと)
大してめでたいとも思っていないであろう親父の主催した自分の誕生パーティーに出席している自分。
親父に取り入ろうとして、『真壁』 翼の誕生日を祝う他人に囲まれながら立っている自分。
(あの時求めていた言葉は、プレゼントは、こんなに空しいものじゃなかったのに)
思い出したくもない昔の自分を、ずっと見せられて。
『真壁』という名がない自分には、一切の価値がないと言われているような――――
「――――っは…またか……」
目覚めの悪い夢に舌打ちをしながら起きた時刻は、起床予定時刻より3時間は早い。
寝なおすか…だけど、またあの夢を見たら。そうこう考えているうちに目が冴えてしまった。
「……仕方が無い」
ただの暇つぶしだ、と自分に言い訳しながら、鞄から一冊の本を取り出した。