Vitaminもの

□ドアスコープ
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人のいない職員室にて、一人眉間にシワを寄せて考え事をしている人物がいた。

「うーん…」

どうしようかな、何にしようかな。
目前に迫った恋人の誕生日に何を贈れば喜んで驚いてくれるのだろうか。
かれこれ一週間は悩んでいるが、良いアイディアは思い浮かばない。

「もう本人に直接聞くべきかしら…」

だけどきっと彼のこと。きっといつもみたいにあの綺麗な笑顔で

『いらないよ。君がいればそれで充分だから』

とか言われてしまう。それじゃ困る!  

「だとすると、やっぱり身に着けてるもの…?」

何だろう。いつも身に着けてるもの。
時計、財布、キーケース、ネクタイ…とか?
だとするとどうだろう。似合うもの、釣り合うもの…

「…某高級ブランド…?」



『ハーッハッハッハ。悩む必要などないだろう。
そんなもの店ごと買い占めて欲しいものを欲しいだけPresentすれば良い。
簡単すぎてアクビがでるな!』



なぜか卒業したはずの教え子の声が聞こえた気がするが、そこはスルー。
一般的な社会人にはそんなことは出来ないんです!それに簡単でもない!
…あれ、スルーのはずがツッコんでしまった。



「…どうしようかな」

いつもスマートで、笑顔で、大人で。
付き合ってるはずなのにわからないことが多すぎて。
むこうは私のことなんか何でもお見通しなのに…。

「…ドアスコープ…みたいだな」

そう、まるでドアスコープだ。
閉まっているドアからは何も伺えない。
付いているドアスコープはいくらこっちから覗いても見えないのに、あっちからは良く見えるんだから。

「ドアスコープねぇ…」
「こっ…鳳先生!?」

いきなり背後から聞こえてきた声に顔を上げれば

「そんなに考え込んでどうしたのかな、南先生」
「うっ…あの…な、なんでもないです!ちょっとプ…えと、考え事を!」
「何か悩み事でも?」

プレゼントを贈りたい本人がそこにいた。

「あれ、あの、授業があったんじゃ…?」
「それならもう終わってるよ」
「へ?」

言われて時計を見上げれば、もう授業が終了している時間だった。

「うそ!?」
「どうやら時間も忘れて本格的に何か悩んでいたみたいだね」
「あ、いや、その…」
「私には話せない?」
「えーと…」

思わず目が泳いでしまう。
ここで本人に相談してしまおうか…いや、でもびっくりさせたい。

「…ご、ごめんなさい。その、なんでもない…です」
「…そう?それなら良いけれど」
「すみません…」
「別にいいよ。その代わり、話したくなったらいつでもおいで」

そう言って席に戻っていく姿は、どこからどう見ても大人。
そして、そんな鳳先生から見たら私はまだまだ子供みたいなものなのかな。
結局帰りの時間になってもプレゼントは決まらないままだった。
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