Vitaminもの

□雨のち晴れ!
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座布団の上で正座、目の前にはお茶と言われて出された黒々とした液体。
服装はスーツではなく普段着、更にここは夢にまで見た南先生の家。
俺は今、どうしてここに居るのでしょうか?

(はぁ…これじゃ葛城さんと一緒だよ…)

荷物をまとめたボストンバックを見ながら、真田は今に至るまでの出来事を振り返った。



きっかけは、自分の住むアパートが耐震補強だかの工事を行うということ。

いつも通り、帰宅した真田が部屋でくつろいでいたときに、無造作に積み上げられていた本の山が崩れた。
慌てて積み直そうとすると、ひらひらと一枚の紙が落ちた。

「何だこれ…『アパート耐震補強工事のお知らせ』……あー!どうしよう忘れてた!!」

三ヶ月ほど前に郵便受けに入っていたお知らせの紙だった。

「うわー…どうしよう。あと一週間しかないや…」

(とりあえず荷物をまとめないと…、服とかはカバンに詰め込んで…残りは全部ダンボールにまとめて実家に送ることにしよう。ダンボールは明日まとめて買って…間に合うかな?)

真田が何とかアパートから出ることが出来たのは、工事着手日の前日だった。
これが二週間前の話。



「まったく…これだから君は困ります。三ヶ月も前に告知されていたのなら、準備くらいできたでしょう」
「すいません…二階堂先輩」
「これに懲りたのなら、以後、部屋に無造作に本を積み上げないこと。整理整頓を常日頃心掛けるように」
「はい…」

工事一週間前に思い出したからと言って、そんな簡単に仮住まいを見つけられるはずもなかった真田が駆け込んだのは、同僚教師でもあり、大学時代からの先輩の二階堂の部屋であった。

「それにしても、先輩の部屋はやっぱり片付いてますね!」
「このくらいは当然です」
「くぁー!やっぱ二階堂先輩って格好良い!仕事も家事もパーフェクト!!」
「真田君、くだらないことを言っていないで荷物を出しなさい。一緒の寝室なのは仕方がない…クーベル・シュタイン・マクシミリアン・シャウント・ンゴロの部屋を君に譲る訳にはいかない」
「はい!先輩!!」

こんなやり取りをしながら二階堂のマンションに転がり込んだのは一週間前の話。
このあたりで、葛城さんに『よっ、居候その2!なになに〜、小猿も家賃払えなくなったクチ?』と、あの謎のマイクで言われた。
おかげで職員室中に俺が二階堂先輩の家に居候してる理由を説明しないといけなかったし。葛城さんめ、よくも南先生にまで聞こえるように言ってくれたな…。



そして今日。夕方から夜にかけて雨が降るという天気予報を聞き逃して、傘を忘れた。

「真田先生、今日の天気予報を見ていなかったのですか?」
「はい…ちょっと寝坊しちゃって」
「わかっています。夜遅くまで頑張っていたことは認めますが、それで寝坊してしまうようでは本末転倒です。気をつけなさい」
「すいません先輩…」
「仕方がありません。不本意ですが、途中まで入っていきなさい。その代わり、コンビニに着いたら自分で傘を買うこと」
「ありがとうございます!二階堂先輩!」

道中は、週末に一緒に見に行く予定の寄席の話や仕事の話、真田の恋愛相談などをしていた。

「今度の寄席っていつもの場所で良かったんでしたっけ?」
「そうだな。それにしても真田…また失敗したのか」
「うっ…あの、いざ誘おうとすると、その…緊張しちゃって…」
「…次こそは成功させるように」

そう。普通に会話してただけのはずだったんだけどなぁ。
南先生のことを考えてて、それで…。

「あ、あの…やっぱり南先生は特別って言うか…他の人とは全然違うって言うか…一緒に笑いたいなとか、楽しませてあげたいなとか…大好きなんです!!」
「……」
「あれ…二階堂先輩?」

そしてなぜか距離を取られ、早足で歩き出した二階堂先輩を追いかけ、コンビニに寄る事もなく、部屋に着いた。

「…真田」
「は、はい!」

なぜか二階堂先輩がものすごく怒っていて。

「出て行け…」
「へ?」
「今すぐに出て行け…!」

その気迫に負けて荷物をまとめて飛び出し、今に至る。
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