Vitaminもの

□分けあう証
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「…と言う訳で、来週には日本を発つわ」
「あぁ…わかった」
「なかなか言い出せなくて…本当にごめんなさい」
「いや、いいんだ。こっちだってなかなか会う時間を作れなかった…仕方ないさ」

そう言いながら隣で俯いている彼女の頭を撫でた。
今日は久々の休日。やっと2人きりで会えた彼女から海外に旅立つという話を聞いたのはつい先程のことだった。

「いつから決まってたんだ?」
「…3ヶ月前くらい。でも、後悔はしてないわ」

この人はこういう人だ。
誰にでも平等に手を差し伸べる。前向きで、お人良し。

「恋敵が増えそうだな…」
「…え?」

苦笑しながら言った俺の言葉に首をかしげる姿も可愛いと思う。
撫でていた頭を引き寄せると頬が紅潮していた。

「大変だったんだぞ。貴女は人気があるから…いつ誰に取られるんじゃないかといつもヒヤヒヤしてた」
「そんな!瞬くんのほうがずっと人気だし、格好良いし…瞬くんのことが好きって女の子は世界中にいっぱいいるもの…」
「でも、俺が愛してるのは貴女だけだ、悠里」
「…私も、世界で誰よりも一番瞬くんのことが好き…」

顔を持ち上げて唇を重ねる。今まで以上に彼女が好きだと思った。
今度は世界中に恋敵が出来るだろうが、構わない。
世界レベルの金持ちだとか、どうしようもないイタズラバスケ猿だとか、とにかく半端ない奴らが恋敵だったんだ。それに比べれば、これから増えるであろう新しい恋敵になんて絶対に負ける気がしない。

「今度は俺が貴女の帰りを待つ番だな…」
「良い女になって帰ってきてやるんだから!」
「……それはちょっと、いや、かなり困る…。他の奴らが、もっと貴女を好きになる、から…」

彼女がくすくすと笑っていた。くそ、こっちは真剣にだな……

「あれ…悠里、右耳どうした?」
「あ、これ?ピアス開けたの」
「いつの間に…」
「1ヶ月前かな」
「そうか…」
「ちょっとでも……った…から…」
「ん?」
「ちょっとでも瞬くんに近付きたかったの…片方だけなんだけどね」

彼女の言葉を聞いて、思わず抱き締めてしまった。
耳に引っかからないように気をつけて、でも強く。

「本当に、貴女は…」
「…瞬くん?」

どこまで俺を喜ばせれば気が済むのだろうか。
俺も貴女に近付きたい。優しくて、目が離せなくて、弱いのに強くて。
俺はどうしようもなく貴女のことが好きだ、と思った。



「…っと、これで良し!」
「こっちもだ」
「瞬くん似合ってるよ。でも本当に良かったの?これ…高そうだし…
「良いんだ。貴女が着けてくれないと買った意味がない。それに悠里こそ似合ってる」
「ありがとう…瞬くん」

空港のゲート前、俺は旅立つ悠里の見送りに来ていた。

「…ちゃんと着けててくれよ…?」
「もちろん!瞬くんと同じくらい大切にするんだから!」
「俺も、悠里だと思って大切にするから」
「うん…じゃあ、いってきます!」
「あぁ。待っているぞ」

ある晴れた春の日。
桜が満開になったその日に、悠里は日本を発った。
俺の左耳と揃いのピアスを右耳に付けて。



(鏡を見たり、ふと耳に触れたりしたら思い出して。俺はいつも貴女を想ってる)

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