短文
□歪んだ鏡の姿
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「…なぁ……教えてよ…」
霊骸は、言う。
「なんで大切にするんだ…?」
「………………」
一護は拳を握りしめた。
「仲間が、オレのことを大切にしてくれるからだ」
「………………」
霊骸は笑みを消した。
「……オレは…大切にされなかった…」
「えっ…──」
「オレはたしかに失敗作の霊骸だ。
だけど、それでも黒崎一護だ」
「………………」
「だけど…、同じ霊骸の仲間は大切にしてくれなかった…」
霊骸はひどく、瞳を揺らした。
「どの霊骸も、いずれ霊力が消えるなら、て…」
「………………」
「…わかるか…?
…あいつらはただ…力がある黒崎一護しか見てないんだよ」
「…そんな…こと」
「……………………」
霊骸はルキアを見る。
「そいつもそうだ。
力が無くなれば、お前の前から姿を消す」
「………………」
「それなのに、なんで大切にすんだ?」
「…………………」
「いつまで、馬鹿みたいに信じるんだ?」
一護は、握りしめた拳をゆっくりとほどいた。
「そう…か…」
一護は微笑む。
「お前は、オレなんだな」
「………………」
霊骸は目を丸くした。
「オレが断崖に捨ててきた、心だったんだな」
「なにを…」
霊骸はひどく取り乱したように目を丸くした。
「断崖を出る時、確かにお前と同じことを思った。
力が無くなれば、もう仲間とは同じ関係のままでいらねェんじゃ、て」
「………だったら…」
「でも、そんな事しない、て本当はお前も思ったんだろ?」
「………………」
「たとえどんな事になっても、ちゃんと繋がってんだ、て」
霊骸の瞳は揺れ、潤みだした。
「一人にさせてゴメンな…」
くしゃり、と霊骸の自分の顔は歪んだ。
──『お前は死神の力を全て失う』
そう言われた時、心のどこなで一護は恐れた。
今までの仲間との関係は、どうなる?
だけど、
藍染へと全ての力をぶつけた時、仲間が見えた。
決して、傍を離れなかった。
「なにをしている、霊骸」
由嶌の焦る声がした。
「もう終わりだ。そいつらを殺せ」
だが、霊骸の手から、融合していた刀が地に落ちた。
「原種…」
霊骸は、言う。
「オレは…」
一護は微笑む。
「もう一人じゃねェよ」
「っ…」
止めどなく涙を流し、原種に霊骸は抱きついた。
幼子のよう、ただ声を上げて泣いた。
「…おかえり」
優しく髪をすいてやり、一護は囁いた。
…
……
………
「馬鹿なっ…」
由嶌は信じられない、と一護を見つめた。
霊骸は全て由嶌の意のままになるように造り上げた。
失敗作とてそれは同じ。
「ふざけるなっ…」
これではまるで…
──黒崎一護も手に入らないようで…
由嶌はただ、唇を噛んだ。
…
……
………
「…原…種…」
しゃっくりまじりの、ただ原種に抱きついたまま、霊骸は言った。
「みんなを…守ってくれるか…」
「ああ」
と、傍らにいたルキアが、痛みをこらえて霊骸の涙を拭った。
「……ルキア…」
「貴様は一人ではない」
「……………──ありがとう…」
ふと、霊骸は笑み、一護の唇に己の唇を寄せた。
目を丸くした一護の口に、何かが転がりこむ。
「……………」
それは、霊骸の核。
義魂丸。
ごくり、と一護がそれを飲み込めば、霊骸は一護から離れ、
笑みを最期に消えた──。
瞬間、爆発するように一護に力が溢れる。
白い着物は死覇装に変わり、背に斬月。
「………………」
一護は立ち上がり、斬月を構えた。
「──卍解」
その言葉には、
確かに強い誓いが込められていた。
──仲間は守る。