短文
□歪んだ鏡の姿
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風に揺れる髪、その隙間から覗く瞳も、自分と全く同じだった。
ただ、右手は刀と融合している卍解の姿。
…そう──断崖内にて修行をした後の、
最後の月牙天衝を手にした姿。
「…霊…骸…」
一護がなんとか言葉を呟けば、自分は一つ瞬きをした。
「なんで…オレの霊骸が……」
由嶌は言った。
一護の霊骸は作れないと。
なのに何故、一護の目の前に自分が、霊骸がいる。
くくく、と由嶌は笑った。
「貴様はどこでその力を手にした?
──断崖だろ?」
「………まさか…」
「ああ。
断崖に貴様の霊圧が見つかった。それを元に、私は霊骸を造り上げたのだよ」
「………………」
「だがまぁ、所詮は失敗作だがな」
由嶌は笑う。
「さぁ、そいつらを殺せ」
「……………」
由嶌の言葉に、霊骸の一護は眉一つ動かさない。
ただ、刀を振り上げた。
「…!?…やめっ…!」
ルキアを守ろうときつく抱き締めたが、振り下ろされた剣圧に一護は吹き飛ばされた。
「っ…!」
地に叩きつけられ、咳き込みそうながら一護は叫ぶ。
「ルキアっ…!」
だが、霊骸の一護はルキアに近づく。
「やめっ…!」
「黙れ」
「!?」
背後に現れた由嶌に、一護は髪を掴まれ、引き摺り起こされる。
「っ…!」
「貴様は私の実験に、実に興味深い逸材だ。
貴様は殺さずにおいてやる」
「……っ……!」
由嶌は一護の耳元に唇を寄せ、囁く。
「貴様は仲間を大切にしていたな。
…──見ているといい。貴様の大切な仲間が自分に殺されるところを」
「…!?」
霊骸の一護は、ルキアに刀を振り上げた。
「…い…いや…!…やめっ…!」
「…………………」
ぐさり、と刀の切っ先はルキアの腹に突き刺さる。
「うぁああああぁぁあっ!!」
ルキアの悲鳴が響く。
「ルキアっ…!!」
一護は由嶌から逃れようと暴れるが、髪は掴まれたまま、
一護の両手は、いとも容易く由嶌の片手によって後ろ手にねじあげられた。
「見ていろと言っただろう?黒崎一護」
響いた、悲鳴。
霊骸の一護はルキアの腹に突き刺した刀を、ぐるりと回転させる。
なぶり殺すつもりだ。
「やめてっ…お願いっ…!!」
ルキアの悲鳴が響く中、一護はただ懇願するが、手は止まらない。
「…頼むっ!!やめてくれ…!」
ふと、霊骸の一護は手を止めた。
由嶌は眉をひそめる。
「どうした?」
「…………………」
霊骸の一護は、ルキアの腹に突き刺した刀を抜いた。
「どうした?まだ死んでいないぞ」
「……………………」
だが、霊骸の一護は動かなかった。
「………原種と…」
霊骸の一護は、まるで糸で操る人形のように振り返り、首を傾けたまま呟いた。
「…原種と……話しがしたい……」
「なに?」
「…こいつら殺したら…話しなんてできないだろ…?」
「………………」
由嶌は一護の髪を掴んだまま、引き摺るように持ち上げる。
そして、一護の顔を覗き込む。
「…なるほど…原種に興味があるか」
「………………」
「いいだろう」
由嶌は一護から手を離し、一護は転がるように由嶌から離れる。
霊骸の一護には目もくれず、一護はルキアに駆け寄った。
「ルキアっ…ルキアっ!」
「………………」
霊骸はただ、そんな原種を見つめた。
「…そんなに大切か?」
霊骸は、言った。
「…」
一護は霊骸を睨み付ける。
「…そいつら…お前を守れない弱いやつだ…。…なのになんで大切にすんだ…?」
「なんで、て…仲間だからに決まって」
「…お前が死神の力無くしたのも、そいつらが弱いからだろ?」
「……なに…を……」
霊骸は、笑った。
「そいつらが藍染倒せなかったから、関係ないお前の力が失われた」
「関係なくなんかっ…!」
「ないよ。
だって、藍染はお前に何かしたのか?」
「……………」
霊骸は笑う。
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