悪魔将軍ともあろう男が、一人の少女に執着するとは何と滑稽な図か。
が、だからと言って彼を見限るような馬鹿はいないのだとアシュラマンは知っていた。

アシュラマンにとって、その娘はあくまで娘であった。
自身の上官のように堂々と溺愛するでもなし、
かと言って自身の同僚のように、横恋慕するでもなし。
無論、恋愛感情からではない劣情の贄にすることもない。
……良くも悪くも、彼は至って普通の目で少女を見ていた。

「おい、小娘」
「…何よ」

ベッドの上で、自身に良く似たどこぞの外国製の人形を弄りまわす少女は、
アシュラマンの言葉に至極不機嫌そうに声を返した。
彼は気づいていた、自分が少女にとってあまり快くない存在であることを。
そして察していた、少女が自分を良しとしない感情の根底に、
大方、彼がニンジャやバッファローマンのように好意を持っていないから――
その上を行って、まさに何の感情も持たず対峙しているからだろうことも。

「その趣味は何とかならんのか」
「アシュラだってしてるじゃない」
「私は悪魔だから良いのだ」

それと指さしたのは、彼女が手にしている人形だ。
元は可愛らしく美しい、雰囲気が彼女に良く似た人形――で、"あった"。
それは、今では目玉が抜かれ、腕がもがれ、髪は切られの
子供がやんちゃをしたという訳でも、車に轢かれたでも
弁解しようのない凄惨な姿になっていた。

アシュラマンがしていること・というのはある種正しい。
彼には、蝶や鳥をバラバラにする趣味があった。
それは生粋の悪魔超人であるがゆえに、生まれ持って内に秘めている
その残虐性からくるものであろうことは誰でも理解できる。
故に、彼がそれをすることは、悪しきことであっても、納得がいった。

…が、目の前の彼女は、ついこの間までただの少女に過ぎなかったのだ。
ただ、悪魔将軍の目に留まっただけの、何の取り柄もない存在。
正義でもないのだろうが、悪でもない。そんな少女は、目の前で悪魔と同じ所業を続けている。

アシュラマンは自分の感覚を不思議に思った。
やめさせなければ・と思ったのだ。
彼女がそれをするのは、どうにも彼の中で納得がいかなかった。

「私は悪魔だが、お前はただの人間だ。
 ……大体、将軍様の隣に似合う女となるには、
 そのような行動は良しとされんぞ」
「…将軍様、怒るかしら」

将軍の名前を出すなり、ぴたりと大人しくなる。
人形に近い冷めきった表情からは読み取り難いが、
(そこに恋情があるかはともかく)彼女は彼女なりに将軍を想っているのだ。
それを分かっていてアシュラマンは敢えて上司の名前を繰り出した。

「ああ、きっと怒るだろう。お前にそんな道は歩んで欲しくはないと思っているぞ」

アシュラマンは嘘をついた。
が、本人からそうと裏付けが取れていないだけのことで、
事実を言ったのだと彼は思っている。

「…でも、将軍様たちは、してるじゃない」
「だからだ。お前には綺麗であってほしいから」

彼女の瞳が揺らぐ。あと一押しだ。
と、そこで部屋の扉が開いた。振り返れば、そこには悪魔将軍が何かを手に立っている。

「将軍様!」
「土産だ。これならいくらバラしても戻して使い回せる」

将軍は少女を見てふわりと笑みを浮かべると、手にしているものを差しだした。
それは、どうも各種パーツが取り外し可能な人形だったようだ。
なるほど、今までは取り外し不可能なものだったから、少女は
ハサミやら何やらで無理やり壊してしまったのだったか。

…は・としてアシュラマンは目の前の少女を見る。
さっきの必死の説得とその揺らぎがどこへやら、将軍みずから差し出してきた、
いくら壊してもどこからも文句の出そうにない玩具に、目をきらきらと輝かせている。

「いいんですね、やっても!」
「ああ、お前の気が済むならいくらでもやれば良い」

アシュラマンは、米神にキリキリとした痛みを覚えた。
それは普段から身につけている装着具がキツくなったとか
そういうものではないと思いながら、
少女のその問題にこれ以上口を出すのはやめてしまおうと決意した。

「(もう遅い。この娘は、悪魔以上に悪魔に育ってしまった)」





一分前の思考を消去
(配布先:不在証明)




 


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