コンビネーション!

□寒くて辛いときの解決法
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「和深、きたよ。」

一人部屋の、さらにカーテンの内側へはいる。

白いベッドに横たわる自分の姉。

三日前の事故で意識を失い、ずっと眠ったまま。

居眠り運転だった。

バスの乗客の中で、和深が一番ひどい怪我だった。

どうして和深が巻き込まれなきゃならなかったんだ。

最初のうちは怒りさえこみあげてきた。

でも気づいた。

怒っていても和深は喜ばない。

とたんだんだん悲しくなってきた。

歳の離れた兄を交通事故で亡くした和音の心に大きな…大きすぎるダメージをあたえた。

「和深…」

名前を呼び、手を握り、頭を撫でてやることしかできない。

蒼白い肌、普段より少し冷たい手。

悲しさで狂ってしまいそうだ。

ろくに眠れない生活。

ずっと降り続いてる雨のせいか時間感覚もおかしい。

「和音君…」

閉まっていた扉が開いた。

梓だ。

「梓さん…」

「はい、これ。
今日の差し入れだよ。」

小さな袋に入ったクッキーを二袋。

「ありがとうございます…」

「兄さんが買ってきてくれたの。
すっごく美味しいクッキーなんだって。
だから、絶対食べてね?」

「…はい」

重たい空気が流れる。

雨の音と沈黙。

「ね、もう少し明るくなろうよ…
そんなんじゃ和深ちゃんだって目覚められないよ。」

「わかってるよそんなことっ!!
でも出来ないんだ…和深ともう二度とあえないって考えちゃって…
頭がパンクしそうなんだ…」

和深の手をきつく握り、訴えた。

色んな感情が浮かぶばかりで消えない。

大丈夫と思いたいのに、頭の中に浮かぶのはもしこのまま目覚めなかったら…という不安ばかり。

「僕もね、昔事故にあったことあるの。
目が覚めたのは事故から二週間後。
その間だずっと兄さんが側にいてくれたの。
自分だってその頃は陸上やってて、試合も近かったはずなのに、ずっと。」

ずっと握っていてくれた右手が温かかった。

「大丈夫、和深ちゃんならきっと。
だから、和音君までつらい思いしないで…?」

後ろから和音を抱きしめた。

鼻を啜る音。

泣いている。

「梓さん…泣かないで…?」

衣擦れを思わすような小さな、小さな声。

「和深…!!」

「和深ちゃん…!」

その声の主、目を覚ました和深だった。

「和音を…一人になんてしないよ…」

弱々しく微笑む、いつもより小さくみえる姉。

「和深…和深…!!
ありがとう…和深…」

ぼろぼろと涙を流している和音。

少し呆れたような表情に変わった和深。

自らの涙を拭い、そっとナースコールを押した。


寒くて辛いときの解決法、君の目覚めが一番


(和深、痛いところとかない?
辛くない? 大丈夫?)

(大丈夫、ごめんね和音…ありがとう、和音…)

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