(夢話)

□闇に降る慈しみ
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全てが闇だった。
深く深く広がってゆく闇は果てしない。冷たさも温かさも何もないはずの空間であった
が身体は酷く凍えていた。まるで身体の温度が全てその闇という空間、否、生き物に
吸い込まれていくかのようだ。
墨を垂らしたかのような暗闇の中だというのに不思議と見える身体を見下ろす。
黒に白く浮き上がった身体はぴくりと指先を動かすことが出来ずに、ただその場に漂っ
ているばかり。身体を動かすための信号が全て遮断され頭の奥が、身体の髄が麻痺
しているようだ。それでも感覚が麻痺していないことが不思議だった。寒いのだ。
足掻くことさえ叶わない。震えることすら。闇に侵されていくのを待つだけ。
深い闇の侵食に麻痺した頭が鈍く働く。苦しい、と認識している。否、これは、痛い。
鋭利な剣に身を裂かれる苦痛ではない。心が痛みに悲鳴をあげるのだ。心の臓を捕
まれ細い糸で括られ、締め上げられている。拷問だ。そならばいっそ殺してくれた方が
余程楽であろうか。

そうだ、殺してくれればいいのに。

邪魔ならばこんなところに閉じ込めるなどと生温いことなどせずに一思いに殺せばい
い。こんな力か弱気小娘一人、細い首を捻じってやればいともあっさりと意識を手放し
昇天してしまうであろうに。そうすればこの闇が怯える脅威が一つ消える。それでいい
ではないか。
だから生温い同情の念などいらない。
苦しさに追い詰められた思考が叫ぶ。死にたい、と。
其れを闇は嘲笑うかのように放置している。果てしない拷問と苦痛を与えて、さもそれ
が楽しいのだというかのように。

嗚呼

求めるべきか。しかし、差し伸べてくれるか。こんな深い混沌まで手を差し伸べてくれ
るものがあるのか。
無意味な希望など持ちたくはなかった。裏切られたとき、もっとも苦痛を伴うのはこの
小さな身体にある弱い心だ。なれば、小さく脆い心はいともあっけなく砕け散ることだ
ろう。残るのは名をつけられたただの白い肉の塊だ。そんな醜い姿になどなりたくは
ない。今とて変わらないかもしれないが、心を失くした人形と成り果てるくらいなら、今
の方が余程いい。
しかし、このままであるなら、何れこの混沌の闇に飲まれ肉塊と化すのは明らかだ。
怖い。ただ肉の塊と成り果てるのは、なんとも恐ろしいことか。思考せず感情も無く声
すら失くし、虚無と虚脱と空虚の塊となる己の姿を思い浮かべると、動かないはずの
身体の奥底がぶるりと震えた。
飲まれたら、この恐怖すら消えるのだ。

たすけて

救ってくださるのなら、どうか、一筋でいい、希望を。
冷たい雫が、冷え切り色をなくした頬を滑り落ちたとき、一筋の光の帯が煌いた。

「ア…?」

意識が浮上する。
月夜の薄明かりの中、青白く浮かび上がった白い狼が視界に映る。
心配げにゆれる黒い瞳が此方を窺う姿は可愛らしく、擦り付けられた濡れた鼻先の
感触に漸く生きている心地がした。
全てが夢であったことに安堵の息を吐いて、ふと視線を指先へ落とす。冷え切った
指先は痙攣するかのように震えていた。その手を爪の痕が残るほどに握り締めて
アマテラスの首の白い毛に顔を埋めた。余りの温かさに涙が出そうだった。


嗚呼、我を救いし天照らしぬる白き神よ

どうか、虚弱なる卑しき人の子の前より消えてくれるな







大神ラーブ!!アマテラスが愛しすぎる。
という発作によりぽんっとできた物。
ヒロインは妖魔に捕らわれていた、という裏設定。(言わないとわかんねぇよ)

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