06/06の日記

07:18
短編・「端午の節句」
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 水無月に入って、心なしか空気がジメジメしてきた気がする。
 今日は男児がちやほやされる日。要するに端午の節句。

 図体はでかいくせに中身はまだ子供みたいなウチの旦那は…まあ、流石にちやほやはしてもらえないだろうけど。
 暦を見ながらそんな事を思っていると、他人がどんな風にちやほやされてきたのか気になった。
 俺様はと言うと、ちやほやしてもらえる年頃の時はちやほやしてもらえる環境にいなかったからちやほやされた覚えは無い。
 
 今なら独眼竜も武田屋敷に居る事だし、聞いてみる事にしよう。


 「An? 端午の節句?」
 「そうそう。あんたがどんな風にちやほやされたのか興味があってさ」

 独眼竜は、昔を思い出すように目を細める。それから、嫌そうな顔になった。

 「…嫌なモン思い出したぜ…」
 「なにー? そんなに可愛がられてたの。実は昔は気弱だったとか」

 独眼竜が一瞬、図星を突かれたような顔を見せた。
 が、取り繕うように言葉を続ける。

 「父上殿に兜を貰った。それが一番だ」
 「ふーん」

 武士の子供ってそんなモンか、と思う。
 独眼竜への興味が尽きたので、自分の主の元へ向かった。



 「端午の節句?」
 「うん、そうそう」
 「ちまきと柏餅を食った」
 「覚えてんのはそれだけ!? つか現在進行形で食ってるし」

でかい図体で子供みたいな主は、どこで手に入れたのか柏餅を食っていた。

 「それ、どっから持ってきたの…?」
 「女中殿に頂いた」

 駄目だ。女中に遊ばれている。主は必死で思い出す仕草をした。

 「むぅ…そう言えば、父上に兜を頂いた覚えが」
 「また兜か…って旦那、その兜はどこにやったのさ」

 主が兜をかぶった姿を見た事がない。何時も鉢巻を巻いているだけだ。

 「それより佐助、何故にそのような事を言い出したのだ?」
 「いや…俺様って、端午の節句になんかして貰った覚えがないから」

 主は、童顔を必死に険しくして考え込んだ。

 「佐助、こっちへ来い」
 「? へいへい」

 一体何をするつもりなのだろう。恐る恐る近づくと、主が手で座れと言う仕草をした。大人しく従う。
 それから徐に自分の鉢巻を解き、俺様の頭に巻いた。
 更に、俺様の膝の上に柏餅を乗せる。

 「端午の節句の祝いだ」
 「思いっっっきり使い回しなんだけど」
 「今はこれしかないのだ」

 子供のように口を尖らせた童顔の主に、こんな祝いを貰うとは思っていなかった。
 照れ隠しに、その頭をこづく。

 「………旦那ってば、いっっつも適当なんだから」

 自分の頬が緩んだ意味を、主は知っているだろうか。


 「有り難う、旦那」

 不器用に巻かれた鉢巻をまき直し、柏餅に噛み付く。
 隣に座っている主が一瞬、自分より大人になった気がした。



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