03/27の日記
19:34
オリジナル短編 雫
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私の手のこの雫は、一体何を溶かすのだろうか。
涙は悲しみだとか、そう云うモノを溶かしている。
そして、零れ落ちてからも、流した本人の感情を溶かすのだ。
だから、涙には意味があるのだろう。
けれど、私の手に有る一雫は、涙ではない。
元々は涙だったのかも知れないし、何処かで拾って来ただけかも知れない。
私はそれをずっと大切に握りしめていたのだ。
そうしたら、分からなくなった。
何か大切な、意味あるモノだったのかも知れない。
それをただただ、大切に握りしめていた。それだけだ。
私はそれが何かを考えることも、思い出すことも止めてしまった。
それは私の体の一部になってしまったようで、分からないことに違和感は持たなかった。
今だって、違和感を持ったわけではない。
ただ、何を溶かすのだろうと思ったのだった。
それは物理的なモノを溶かすのか。
はたまた、精神的なモノを溶かすのか。
私はだから、大切に握りしめていた筈のその雫を、手放してしまったのだった。
その小さな小さな雫は、私の足下の地面に落ちる。
そして、何も溶かさずに地面に溶けて行く。
いや、もしかすると地面を溶かしているのかも知れない。
私よりもずっと小さかった雫は、私よりも大きくなり、大地を溶かして行く。
私の小さな雫は、全てを溶かすのだった。
そう悟った瞬間に。
無性に悲しくなってしまった。
雫を握りしめていた手は今は空っぽで、虚しい。
どうしようもなく虚しくて、雫の大切さをやっと思い出した。
あんなに大切なモノだったのに。
大切なそれは私の元から居なくなって、私よりも大きくなって、全てを溶かしてしまった。
小さな私を嘲るように、溶かしてしまった。
そうしてやっと気付く。
涙が悲しみを溶かしているのと同じように。
あの雫は、私の手の中にあった時から溶かしていたのだ。
私の充実感を。私の喜びを。
───私自身を。
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