03/12の日記

19:34
短編・墜落  (完全オリジナルのよく分からないモノ)
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さらさらとしているのか、ぬるぬるとしているのか。
分からなかった。ただ、それは水のように私を包み込む。

重い目蓋を開くと、真っ黒な何かが見えた。

海の中から真っ黒な夜空を見ているよう。

自分の髪が頬にまとわり付く。鬱陶しかった。
それを払うため、指先を動かす。
けれど、動かなかった。動かないと言うよりも、指が溶けて無くなったようだった。
この不思議な水の中に溶けて、広がってしまったよう。

首も動かない。動かせない。見えるのは、視線を動かした先だけだった。
だから、自分がどうなっているのかは分からない。

動かし難い目蓋を動かして、目を閉じた。

自分の、目蓋の裏の闇。
目は閉じても、何かを映している。何だか、意味も無く馬鹿馬鹿しかった。

何だか全部が馬鹿馬鹿しい。
此処は何処なのか考えた、その自分が馬鹿馬鹿しい。

そんな私を嘲るように、海鳴りがし出した。
可笑しい。此処は海の中なのだろうに。

ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ。

これは、本当に海鳴りなのだろうか?

水の中なのに、風が私の髪を攫った。

ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ。


……ざわざわ、ざわざわ。

分からない。水が私の思考を邪魔する。
海鳴りだと思ったそれは、人のざわめき声にも風が木の葉を撫でる音にも聞こえた。
変わっていく。目蓋の裏の闇が、揺らぐ。
同じ色をした色々な闇が、私の中に滑り込む。

海が、海鳴りが、水が、水の音が。
水に溶けて広がった私の指先から、滑り込んでくる。

───厭だ。
───厭だ厭だ。止めて。私の中に這入って来ないで。

叫ぼうと開けた口の中からも、それは這入ってくる。
もう、水なのか何なのか分からない。
自分の体がそれに汚染されていき、重くなり、沈んでいく。

止めて止めて止めて───。

これは何なのだ。
私を汚染し、飲み込むのは何だ。
分からない。怖い。分からないことが怖い。

それを確かめるために、私は重い目蓋を動かす。

開いた目に映ったのは矢張り真っ黒い闇で───。


それは眼球の粘膜からも這入り込んで私を汚染し────。






私は正体不明の闇の底へ、墜ちた。

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