03/03の日記

20:43
短編 おらが村の雛祭り
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3月3日、雛祭り。

おらの村では、その日を村全体で祝う。
まだ幾らか雪の残った村で、おらと其程変わらない年の女の子が一張羅の綺麗な着物を着て嬉しそうにしている。
でもおらは、いつもと同じような服を着ていた。

「いつきちゃん、おらん所嫁に来てくれ〜」
「こいつの所に行くくらいなら、おらん所来た方が!」

楽しげに酒を飲んでいた皆のうち、何人かが赤くなった顔でこちらへ来た。
女の子の祭りなのにいい年の男衆が酒を飲んでどうする、と思う。
でもまあ、いつも大変な仕事をしているのだからそれくらいは勘弁してもいいのかも知れない。

おらは適当に返事をして、女の子達が集まって居る場所へと行った。

みんな、嬉しそうに雛人形を眺めている。

おらは少し考えて、結局遠目からそれを眺めるだけにした。
いつも一揆衆の頭をやっているから、嬉しそうに綺麗なお人形を眺めるのが何となく気恥ずかしかった。


「Hey、いつき」
「ぅわあぁ! 蒼いお侍さん、何で此処にいるだか?」

ぼーっとしていると、いきなり声をかけられた。
後ろにいたのは、前におら達に助言をしてくれた人の良いお侍さんだった。
時々この村に来ては、のんびりして帰って行く。
意外とお侍ってのは暇なのかと思う。

「今日は雛祭りだろ? アンタそう言う歳じゃねぇのか」

何だか、子供扱いされているような気がする。
ただ多分、お侍さんに悪気は小指の爪先程も無い。
お侍さんは、すぐに向こうの方にいる女の子達に気付いたようだった。

「どうしたんだ。混ざって来れば良いじゃねぇか?」
「お、おらは、でも…」

どう答えて良いのか分からなかったおらは、適当に言葉を詰まらせた。

「………? まあ良い。コレはアンタにやる。独り占めでも分け合うでも、何でも好きにしろ」

お侍さんはおらの掌にこんもりとした袋を載せた。中には砂糖菓子が入っていた。

「じゃあな」
「あ…。お侍さん、もう帰るだか?」
「ああ。抜け出してきたからな。早い内に帰らねぇと小十郎が鬱陶しい」

お侍さんは後ろを向いて、歩き出そうとした足を一度止めた。

「恥ずかしがってねぇで交ざって来いよ。嫁ぎ遅れるぜ」
「と……」

一瞬何を言われたか分からなかった。
お侍さんは、笑いながら去って行く。

「よ…っ、余計なお世話だべっ!!」

お侍さんは快活に笑いながら歩いて、置いていた馬に跨り帰ってしまった。

全く、何をしに来たんだろか。


「…………………」


おらは少しの間、そのままそこに立っていた。
少し離れた場所で、同じ歳ぐらいの女の子が嬉しそうにはしゃぐ声がする。

勇気を出して、おらはその方へ走っていった。


「お雛様、綺麗だなァ!」


少し大きな声で言うと、女の子達は驚いたようにおらを見た。


そして、笑いながら「うん」と言った。

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