封神演義
□待時
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汗が、この場所に居る人々の背を伝う。
酷暑の夏。駅のプラットホームには冷房が効いていない。その中に、汗ひとつない少年が一人。
その少年に影が下りる。その少年はそこに居るのにそこには居ない。
目には映れど、少年の姿は認識さることはない。なぜなら少年は超越者なのだから。
しかしある女は、ちろりとその少年を振り返る。
その女は少年を見つめる。女は少年が超越者である事を知らないが少年の持つ荘厳でかつ雅やかな空気を感じることは出来た。しかしその少年の目と女の目が交わる事は無い。
女は所持品の携帯電話を取り出し関心を反らした。
「暑いわねぇ」
「地球温暖化でしたっけ。世も末ね」
世間話に花を咲かせる者たち。何も知らずに、ただ笑う。
『女禍』
少年は初めてその名を呼んだ。たったひとつしかないけれど何よりも重要な少年の使命の、対象たる名前。
誰かの吐息がこの場所に響いた。
少年は思う。この世界も遠くない未来に滅ぶだろう、と。
『しかし今はまだ待たねばならない』
それは自らに対する声にならない言葉。そう、まだ逸ってはいけない。まだ早い。冷静でいなくては、勝期は来ないのだから。
3つ前の世界で出会った老翁は少年に世界はそう簡単には滅ばない、だから心配することなどないよと諭した。その三日後にいきなりその滅ばない筈のものが滅ぶとも知らないで。
前の前に出会った子供は、世界は貴いものであるから、壊す者など居る筈がない。そうそう少年に向けて笑った。数十年後、その子供は大人になり戦争で息子を失ったけれど。
前の世界で出会った女は教会で生命は神から生まれると解いた。少年にはその言葉がその教会にいた他者と別の意味で聞き流すことが出来なかった。
そう、それならば、
女禍は神なのか。
嗚呼、実際そうなのだろう。人間の定義において神とは創造主。そしてそれならばそれは人にとっては神にも見える。
暑さに喚く民衆が気づくことは永久に無い。神につかえるものですら真理には程遠いのだから。
そう、ただ、さっき少年に気付いたような稀なる者。
彼らの自我が、女禍を倒すことを求め出すこと。
それをただ少年は願っているのだ。
→後書き