新しい茶葉
□ノスタルヂックレコード
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―あかいくつ はいてた おんなのこ いじんさんに つれられて いっちゃった―
掠れたソプラノ歌手のレトロな歌声がこだまする、土曜の昼下がり…
トン、トン、トン、トン…
机にシャープペンを打ちつけるリズムも重なって、実に風情がある。
問題文の清少納言が云うように、実にをかしである。
―よこはまの はとばから ふねにのって いじんさんに つれられて…
ダンッ…
それまで静かに机の前に座り、悩ましげな表情をしていた彼女…
部屋の主が勢いよく席を立つ。
弾みで、ポキリとシャープペンの芯が折れたが、彼女は気にも止めない。
そのままズカズカと窓の前まで行き、ピシャリと窓を開け放つ。そして、一声…
「史裕!!」
叫んだ。
カラリと小気味よい音を立てて開く窓。その部屋の主は彼女と屋根一つ隔てた所にいた。
「何?」
至極落ち着いた声で一言返す。
初めの部屋の主の彼女は、その何気ない一言に怒りを超えて、呆れた顔で言った。
「うるさい!!」
彼女は向かいの部屋の隅に置かれたある物を指差していう。それは今となってはお目にかかるのも珍しい蓄音機であった。