奥の茶葉

□シンクロ
1ページ/6ページ

「いい加減うるせーんだよ!もう少し音を抑えろよ!」

「音抑えたら練習にならないだろ!」

「だからってうるさ過ぎるだろ!お前一人しか部員いないんだから、もう少し考えろよ!」

「ああ、そうかよ。わかったよ!お前は俺が邪魔なんだろう?
いいよ、出てくよ!俺がいなけりゃお前はそれで満足なんだろう?」

足音高く階段を降りていく友人を眺めながら、俺は誰もいなくなった3階の廊下に肩を上下させながら立っていた。

俺が悪いのは、わかっていた。
あいつはこの学校唯一の吹奏楽部員、俺はこの学校唯一の美術部員だ。美術室と音楽室しかないこの学校の3階は俺達二人の楽園だった。
俺がコンテを走らす傍ら、廊下の反対であいつが鳴らすトランペットの音が俺の心を躍らせたものだった。

ただ、俺は今焦っていた。卒業前、最後のコンクールに出す絵がどうも上手く仕上がらないのだ。
俺は書きかけになっている傍らの絵を見た。
そこに描かれていたのは、妙にあいつに似た一匹の黒猫だった。

当たってしまった…

自分のスランプをあいつのせいにして…
俺はその猫にコンテで大きくバツを描いて、キャンバスからあいつを蹴落とした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ