新しい茶葉

□ナンバーX
―wheel of fortune―
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男はかれこれ40分も店内をうろうろしていた。
店内の音楽が一周しても、バイトが万引きではないかと疑っても、男は顔色を悪くしてうろうろを繰り返すのだ。
彼の財布には給料が三カ月分入っていた。
そして彼の心には一つのシナリオが入っていた。
ありきたりだ。でもだからこそ、分かりやすくてそれがいい。男はそう思っていた。
ただ一つ問題だったのは、男の予想より世間一般の給料三カ月分が高価だったということだ。
男が欲しいのは定番ダイヤモンドのリング。
手頃なのは彼女に合わないアメジストのリング。

男のうろうろが始まってから時計の長針が一回りした頃、店の奥から女主人の声が響いた。

「あんた!いつまでそうしてんの!買わないなら商売の邪魔だよ、出てっとくれ!」

男は病を患っていた。医者には治せない病だった。しかし、女主人はその病を一刀両断してしまった。

「男ならさっさと決めな!あんたの足元見て断るような女なら、こっちから振ってお仕舞い。背伸びしたって何にもなりゃしない。」


男は安物を買った。彼にとっての給料三カ月分。シナリオにない運命の輪。


男は彼女を夜の高台に呼び出した。男の想いを渡すため。彼女に小さな箱を差し出した。
嬉しいと言って受け取る彼女。しかし直ぐに怪訝な顔へと変わる。彼女は箱の中を見ながら、ゆっくり口を開けだした。

「―まさか、あんた彼女に渡すものの中身も見なかったのかい?
これを読んでる彼女さん、しっかりその馬鹿しつけておやり。―」

僅かな沈黙。顔を背ける男。途端に身体が重くなり、抱きつかれたのだと気がついた。
彼女の指にはダイヤの指輪がはまっていた。


―――――――――――
あとがき

一ページ制ということなので、あとがきもここです。
お題「ナンバーX」…
これなんと読むんでしょうね?
エックス、バツ、カケル等々ある中から、Raitoはローマ数字の10に注目しました。
ローマ数字といえば、うちのメイン“TAROTORA”よろしくタロットが、中でも]といえば「運命の輪」が思いあたりました。

人生で一番大きな輪…物理的なものに限定すれば婚約指輪かなぁ…と。
恋さえ経験のない僕にはまだまだ運命の輪は遠いようです。
 

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