tokiya/long

Songbird, bluebird
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自分の部屋に戻ると私はすぐにパソコンを開き、持っていたCDをセットした。
さっきまで一緒だった彼女の顔が、私に真剣にパートナーになってほしいと言うその様子が自然と思い起こされる。

春ちゃんが、私のために作ってくれた曲…。

どんな曲なのかと考えると、胸の音が少し早くなる。
これは期待か、それともその期待を裏切られたときのための不安なのか。とにもかくにも、聞いてみなければ何も始まらない…。
そしてすぐに、部屋にそのメロディが流れ始めた。


ピアノの音が軽やかな前奏からそのまま、そっと優しくAメロが始まる。
Bメロから徐々に音が重なり出して、サビ…。
息を飲む。
曲が2番へと続いていく中、一層その旋律に耳を傾ける。
目を閉じると、深い息がふうっと漏れた。


綺麗。
その言葉が一番似つかわしい曲だった。
例えるならそれは、綿雲が浮かぶ淡い春の夜明け。
シンプルだけど優しくて、聴いているうちにすべてをふわりと包まれるような曲。だんだん見える世界がふわっと広がっていくような感覚…。
聴いていると、春ちゃんの思いがひしひしと伝わってきた。私の歌を初めて聴いたときの思い、私への呼びかけ、音楽への情熱、そして、私をパートナーにと望む彼女の願い。この曲にはそんな思いのすべてがぎゅっと込められている。とても温かい曲…熱い思い。

春ちゃん…。
私とパートナーになりたいんだってこと、この曲いっぱいに溢れてるその熱い願い。こんなにも私のことを求めてくれる人がいる。こんな私でも、必要としてくれる人がいる。この曲を聴いて、春ちゃんの思いに触れて、私の中にも熱いものがこみあげてくる。

私も、この春ちゃんの思いに応えたい。

こんな私でいいのなら、精一杯彼女の役に立ちたい。春ちゃんが、私をパートナーにと望んでくれるのなら、私はその手を取りたい。こんなにも素晴らしい曲を紡ぎ出す彼女の隣に並びたい。

彼女に応えるために、今、私には何ができる?


目を開いて、息を吸い込む。
手近にあったノートを開き、ペンを握った。

この曲を通して触れた彼女の熱い気持ち。それと呼応するように溢れてくるこの胸の思い。それを今かたちにしよう。ピアノに託して、春ちゃんは私へと自分の思いを伝えてくれた。私も伝えたい。これは春ちゃんが私を思って作ってくれた曲。だからこの曲は、春ちゃんから私へのラブレターなんだ。その返事を、言葉にして、この曲に乗せて春ちゃんに届けたい。

詞を書こう。この曲に歌詞をつけよう。

彼女の曲があたりに満ちる中で、私は手を動かし始めた。思ったこと、感じたこと、私の思いすべてを残さず書き記すんだ。私は夢中でペンを走らせた。一度かたちにし始めれば、思いは次から次へと溢れて止まらなくなり、手の動きが思考の速度についてきてくれなくてひどくもどかしい。何もかもを忘れ、ただ詞を書くことだけを頭に。この胸中に浮かんだものすべてを書き記したい…春ちゃんに伝えたい。すべてはそれだけだった。

夜が更けて行き、深夜を超えて、朝が近づいてきても、溢れる私の思いがとまることはなかった。時間を忘れ、眠ることも忘れ、私は机と向かい続けた。




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