tokiya/long

温もりの duet
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7月。

おはやっほーニュースでの出来事を通し、歌を通して人に何かを伝えること、そのやりがいを知った私は、以前に増して一層歌に明け暮れた。レコーディングテストの結果新しい課題も見つかり、今はそれを克服しようと毎日基礎トレーニングや授業の復習に忙しい。でも、とても充実した日々を送っている。



というのは嘘。…半分は。

歌う楽しさを知ったのは本当だ。歌を通じて人とつながる楽しさ、嬉しさ。心に刻みこまれた忘れられないあの感覚…。歌うことがもっと好きになった。

ただ…。

こんなにも歌にのめり込んでいるのは、別の何かを忘れるためかもしれなかった。

歌っていても、勉強していても、…そして今も、彼のことが私の頭から離れない。

あの日からだ。
彼がHAYATOだと知ってから、そして、
自分の気持ちを意識し始めてから…。

でもこの感情は言葉にしてはならない。

「恋愛禁止令」

学園長が掲げる絶対の掟。

日向先生が入学時に教えてくれたこのルール、すっかり忘れてしまっていた。自分には関係ないと思っていたからかもしれない。
こんな気持ち、抱いたのは初めてで…。だけどこの思いは表に出してはいけないと思った。かたちにしない方がいい。はっきりと認識してしまったら自分が余計につらくなるだけ。
それに…

恋愛禁止令がなかったとしても、この思いが報われる日はきっと来ない。あの彼が私を…、なんてあり得ない。これは大それた思いだ…忘れよう。
そう思うのに、こんな感情振り切らなきゃって思うのに、…できなくて。

一ノ瀬くん…。

彼の名前を心がつぶやく度、心が揺れる。離れない彼の面影が私の胸を締め付ける。

ぐるぐるぐるぐる…。
あれからというもの、ずっと悩んでばっかり。
もう疲れちゃったな…。


「…はぁ」


そっとため息をついた、そのとき。




「××!」

…ん?
誰かが私を呼んだ?

「そんなとこにひとりで座ってないで、一緒に泳ごう!」

私の方へ駆け寄って来たのは音也くんだった。
その笑顔はいつも以上にまぶしく見える。それは私の気持ちが今沈みきっているからかなあ…。

「…おーい、聞こえてる?××ー」

音也くんはまるで太陽みたいだよね…。

「ほら、行くよ!」

ぼんやり彼の笑顔を眺めていたら、音也くんが私の手をぐいっと引っ張った。
体育座りをしていた私の体は予期せぬ力に反応できず…

「…え…わ!?」

立ち上がりながら、バランスを崩しよろめいた。

「おっと!」

すかさず音也くんが支えてくれ、力強い腕が私の背中に回った。

「ごめん、大丈夫!?」

焦ったような音也くんの声に私が大丈夫だとうなずくと、彼は安心したように「よかったあ〜」と微笑んだ。
ああ、向日葵がここに咲いている…。

「あっちにマサとか翔もいるからさ、みんなで遊ぼうよ!」

「え?いや、私は…」

ここにいるよ、そう言おうとしたものの、そんな暇もなく。

「ね、早く!」

「あ、あああああ…」

あっという間に音也くんに連れ去られ、
私はずるずるとプールサイドの水際にやってきた。


今日はプール開き。
AクラスもSクラスも入り混ざっての授業ということで、みんな思いっきり楽しんでいる様子。クラスの垣根を越えてにぎやかに水着ではしゃぎまわっている。
そう、問題はそこなんだ。
水着…。


「みんなー、××連れて来たよー!」

音也くんの声にこちらを見たプールの中の顔ぶれは、いつも通りのものだった。

「お、来たか!早く入ってこいよー!」

「あ、ぺけちゃん!…じゃーん!見てくださいこれ、ピヨちゃんの浮き輪!ぺけちゃんにつけてほしくて持って来たんです!早く早くー!」

「○○、準備運動はしたか?危ないからな、ちゃんとしておけよ」

翔くんになっちゃんに真斗くんが、水面に揺られながら私を見上げていた。みんなの楽しそうな様子に頬が緩む。
ちなみにレン様はプールサイドでハーレム作成中なのでここにはいない。

そして、私がずっと気になっている彼の姿もなかった。
彼はこんな行事に参加する性質ではない。
…わかってはいたけど、少し残念に思う私がいる。

「ああ、やっと来た!」

そこへ響いた快活な声。向こうからじゃぶじゃぶとやって来たのは、

「ともちゃん!」

「××、待ってたよー!」

そう言って手を挙げたともちゃんは、なんというか男前な女の子。
さばさばしていてとても頼りになる姉御って感じ。
あ、その後ろで控え目に手を振っているのは…

「…こ、こんにちは」

春ちゃんだ。
彼女はとってもおとなしいけど、見た目からは想像できないくらいすごい音楽をつくるらしい。
って翔くんから聞いただけで、私は耳にしたことがないからわからないんだけど。

この間、音也くんのところに行くという翔くんに引っ張られて行ったAクラスの教室で、ふたりとは友達になった。
この学園には男の子が多いこともあって、女の子の友達はいなかったからうれしいな。

それよりも…。
ふたりの格好を見て私は思わず目を見開いた。

「ふたりとも、水着かわいい〜!!!」

目がきらきらするのを抑えられない!!!

「へへ、似合ってる?この間買ったばっかりなんだー♪」

ともちゃんが着てたのは赤と白のボーダーのビキニ。マリンってやつかな?
ぱっきりした色が彼女によく似合ってる!そしてセクシー!!

「春ちゃんもかわいいね〜!」

フリルの縁取りがかわいらしい白い水着を着ている春ちゃん。
すっごく照れてるけど、それがまたかわいい!

「は、恥ずかしいのであまり見ないでください…」

ともちゃんの陰でさらに小さくなっちゃって…顔も真っ赤。もう、かわいいんだから!
ふたりともスタイルがすごくよくて惚れ惚れしちゃう。
ああ、これじゃ男子も泳ぐどころじゃないよねー!

と、ふたりを見ながらうっとりしていた私だったけど、続くともちゃんの言葉で急に現実に引き戻された。


「…で?あんたはどうなのよ」

「え」

ざばあ。
ともちゃんが水の中から上がってきて、つかつかと私に詰め寄った。
う、嫌な予感…。
ニヤリと笑う彼女にじりじりと後ずさる。

「人のことばっか言ってないで、××も脱いで見せなさい!とぅっ☆」

「ひゃあぁ!!!」

じりじりと距離を詰められたと思った途端、ともちゃんが素早い動きで私の羽織っているロングパーカに手をかける。

「わ、私はいいの!泳がないから!!!」

「ダーメ、泳ぎなさい!私が見たいのよ!早く!!ほら!」

「うええええぇぇぇ〜」

「みんなも見たがってるから!」

「そんなはずないでしょー!!!」

嫌だ、脱ぎたくないー!!
ジッパー上げ下げの攻防戦は続いた。

「んーもう、頑固なんだから…」

はあ、はあ、はあ…。ともちゃんの攻撃が止んだ。
腰に手を当て、何やら考えている様子のともちゃん。
あきらめてくれた…?
と安堵しかけた次の瞬間、

「こうなったら仕方ない、秘義!」

ともちゃんが構えた!

「こーちょこちょこちょ〜♪」

「わ、ちょ、ふえぇぇぇぇぇ!」

逃げる暇もなく体の至るところをくすぐられる。
それは反則だよともちゃんー!!!

「ふっふっふ〜♪今のうちー!!!それっ!」

「うわぁぁぁぁん!!」

もう私は抵抗することもできず、あれよあれよと彼女の思うまま…。
そして、ついに…。

「ほい、できたっと♪」

ともちゃんがぽいっと私の来ていたパーカーを脇へ投げやる。

「あああ、見ないでえぇぇ…」

うう、撃沈…。
あっけなく脱がされてしまった…。

「ふうん…」

自分の体を抱きしめるようにして縮こまる私を、ともちゃんが上から下までなめるようにじっとりと見ている。
やがてともちゃんはにやりと笑った。

「あんまり頑なだから何かと思ったら何よ、めっちゃくちゃイイじゃない!」

「…嘘だー」

私を褒めそやすともちゃんをじっとりと見返す。
私、スタイルには自信ないもん…。
ともちゃんだって春ちゃんだって、みんなこんなにかわいい中にいるの嫌だよー…。

「嘘じゃないって!ほら、見てみ?」

プールの方へぐいっと背中を押し出される。
う、みんなの視線が、痛い…。

「うわあ、××、すっごく似合ってる!めちゃくちゃかわいいよ〜!」

まず聞こえて来たのは音也くんの声だったけど彼の顔を見ることもできない。
ああ、恥ずかしい…!

続いてなっちゃんが、

「ぺけちゃん…すごくかわいいです!ピンクがすっごく似合ってます!」

なっちゃんが目をキラキラと輝かせて「ああ、抱きしめたい!!」とうきうきしてるオーラが伝わって来た。
でも、私が着ている水着は確かにかわいい。デザインは派手じゃないけど、淡いピンクでレースがついている。
小さな声でありがとう、とつぶやいた。

「あ、ああ…よく似合ってるぞ」

「う、うむ」

翔くんと真斗くんはなんだか様子が変。ぎこちないというか、固いというか…。
私の格好が変だからかな…ううう…。

「恥ずかしがっちゃって〜、翔とマサやんは照れ屋なんだから!」

ともちゃんがそう言ってふたりをからかう。
「うるせぇ」と翔くんが文句を言って、真斗くんはじっと黙ったままだった。

「でも、本当にかわいいわねえ。こりゃあ男が放っておかないわ♪」

ともちゃんが改めて私をなめまわすように見た。
おっさんですかあなたは!

「いや、まさかそんな」

私の否定の言葉など耳に入っていないともちゃんはひとりで何やらつぶやいている。

「かわいいのは罪だわ…ホント、本人が気付いてないんだからもっと性質悪いわ」

と、うんうんとうなずいた。
わけがわからず他のみんなの表情を窺ったけど、みんなも「うんうん」とうなずいていた。
なんなんだ…。

「でもそろそろダメね。野郎どもの視線が集まって来たわ…まったく、じろじろ見んなっつーの」

と何のことかぶつぶつと言い周囲を睨みつけたあと、ともちゃんはにこっと笑って私の手をとった。

「よし、じゃあ野郎どもの視線から逃れるために早く泳ご!」

そしてその手を引っ張られたと思ったら、

「それーっ!」

ふたり一緒にプールへジャンプした!

「わーっ!?」

ざっぱーん!

「うわっ!」

翔くんや音也くんたちの叫び声。
すごい水しぶきが上がってみんなを巻き込む。
私は必死で水面に顔を出した。

「あはは!ほら、行くよ××!」

「え、わわわっ!?」

すぐにまたともちゃんに腕を引っ張られる。
みんなが水しぶきに驚いている隙に、ざぶざぶと水をかき分け走り始めた。

「お姫様は私がいただいた!欲しかったらここまでおいで〜っと♪」

「あー!待てよ友千香、ずるいぞ!」

「くっそー、ぜってぇ捕まえてやる!」

「ぺけちゃんは僕とピヨちゃんで遊ぶんですよう!待ってくださ〜い!」

ともちゃんに舌を出して挑発され、みんながすぐさま後ろから追いかけてくる。

「まったく、また下らぬことを…」

そう言ってあきれていた真斗くんも、

「一十木、俺は一旦上がって向こうから責める。挟み打ちだ!」

次の瞬間にはもうプールサイドを駆けていた。
早っ!!!

「了解!」

「俺は右に行くぜー!」

「じゃあ僕は左ですね!」

そうしていつの間にか私はともちゃんの捕らわれの身となり、みんなから狙われることとなった。

「わ、やば!××、絶対つかまっちゃダメだからね?今日は私といちゃいちゃするんだから!」

私の前を行くともちゃんが振り向いてにかっと笑う。

あれ、そういえば春ちゃんは?
と思っていたら、

「あああ、私、私も××ちゃんと遊びた…わあっ」

ばっしゃーん!
背後で春ちゃんがすべってこけた音がした。

「は、春ちゃんだいじょうぶー!?」

後ろを向いてそう叫んだら、「だ、だいじょうぶですー」というか細い声が…。

「春歌、待ってな!私が××を死守してあんたのところに連れてってあげるわ!」

ともちゃんがそういって春ちゃんに向かってガッツポーズしてみせると、

「わあ、ともちゃんがんばってー!」

と、春ちゃんの声援が飛んだ。

楽しいな…。
だんだん迫ってくるみんなの声を聞きながら、焦り始めるともちゃんの様子を見ながら、私の頬は自然と緩んでいた。

「よし、完全包囲!」

「××を渡せー!」

「ぺけちゃん、今助けます!」

「観念するんだな渋谷」

「ぐぬぬ…これまでか。こうなったら××…潜るよ!」

「え、ええええ!?」

急に始まったおいかけっこだったけど、私は何もかもを忘れてはしゃぎまわった。

そんな私の姿をずっと見ていた瞳には気がつかないで…。







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