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狂愛存在Q.E.D.
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月の光が満ちる部屋。
開け放たれた窓の向こうには、黒々とした闇夜が広がっている。
星の光は遥か、その輝きはまるで宝石をちりばめたよう。
微かな夜風に揺れるカーテンが、その陰にとある男女の姿を映し出す。
軋むベッドの上。そのふたりを、ただ青白い月だけが静かに見つめていた…。




「ぺけ…」

あなたが私の名前を呼ぶ。
愛おしそうに、切なげに。
覆いかぶさるあなたの体。
首にかかったあなたの手。
私の愛が呼び起こされる。
歪むあなたの顔、その葛藤の色。
私を失いたくない、でも私のすべてを奪ってしまいたい。
本能と理性の間で揺れるあなた。
それも私への愛故に…。
そんなあなたが私は愛しくて、愛しくて、

「マサ…」

呼応するようにあなたを呼んで、
すべてを受け入れるように目を閉じる。
あなたの想い、願い、望み、欲望…そして、愛。
そのすべてを私が受け止めるの。

「ぺけ…」

強まるあなたの指。
この束縛にすべてを預けて、私は終わりなき闇へと堕ちて行く。
薄れゆく意識の中、そっとあなたの頬に手を伸ばして、
その温もりの奥に隠れる暗闇の端に触れた。

「マサ、愛してる」

私を映すあなたの深い瞳。
ふたりを包む今宵の夜空と重なる。
私はあなたを愛しているから。
私のすべてを好きにしてほしいの。
この残酷なくだらない世界。
別れを告げるなら、どうか愛しいあなたの腕の中で。
そんな永遠を夢見て、私はつかの間の闇に溺れる。
嗚呼いつか、私の生をあなたの手で終わらせて…。
願いは意識の深淵で果てた。



















「マサ…」

お前が俺の名を呼ぶ。
澄んだ瞳が映しだす深い闇。
俺のすべてを受け入れるように目を閉じるお前に、
俺は本能の欲するがまま、締める指に力を込める。
白く華奢な首筋に食い込んでいく、俺の醜い欲望。
この重い想い。
受け入れてくれるのはきっとお前だけ。
俺が愛するのはお前だけ。
どうかどこにも行かないでくれ。
ずっと俺だけのお前でいてほしい。
そんな願いが生む歪んだ愛情。
その瞳に他の男が映るなら。
その声が他の男を求めるなら。
それを止めることができないなら。
どうかこの手にお前の最期を。
そうすればお前はずっと微笑んだまま、
俺の中だけに生き続ける。
絶対にこの手から失いはしない。
お前はずっと俺だけのもの…。
本当はわかっているのだ。
そうして欲望に流された先に何があるのか。
お前は生き続けなどしない。
お前のいない世界。
俺は永久にお前を失ってしまう。
お前のいないひとりきりの世界を生きるなど、
俺には耐えられない…。
理性はそう理解しているのに、
俺はこの悪戯な遊びをやめることができない。
俺の頬を撫でたお前の手が、白いシーツの海に力なく投げ出される度、
俺は深い罪悪と得も言われぬ占有感に溺れ、酔う。
繊細なお前の体が、俺の手の中で壊れゆく感覚。
忘れられないこの悦びが、快感が、俺の愛を呼び覚ますんだ。
理性と欲望が俺の中でひしめき合い、
その間で俺は揺れる。
なんと汚れた愛情だろう。
けれど、こんな俺をお前は『愛している』と言うのだな。
そんなお前がまた愛しくて、
壊れるほどに抱きしめる。

「…すまない、ぺけ…」

俺もお前を愛しているんだ…。


来る日も、来る日も、俺はまた繰り返すのだろう。
このくだらない愛の遊びを、
きっとお前をこの手で失う日まで…。

手の中に残ったお前の感触と、俺の腕の中で儚く消えそうなお前の温もり。
その首筋に残った赤い愛情の痕が、月光に鈍く、愛しく浮き上がって見えた。










存在Q.E.D.



  
     愛、証明完了。




          The end.


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