tokiya/long

夢の裏 winding road
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10月。
めっきり秋らしく、風も冷たくなった今日。


「ライブ?………私が?」

「はい!」

昼休み。温かな陽だまりの中、一緒にお弁当を食べていたときのことだ。
にこにこと満面の笑みで返事をした春ちゃんに、私はぱちぱちと目を瞬かせた。

春ちゃんの話によると、今月末には学園祭があるのだという。
そこではクラスごとの出しものなどが行われ、そして、生徒たちによる有志発表があるらしい。日頃の成果を表すため、そこではライブをする人が多いんだそう。パートナーと曲を作って歌ったり、演出や構成を考えたりと、今後のための勉強にもなるということらしい。
中庭やその他の教室にも発表の場が設けられているのだけど、やっぱり一番広くて映えるのはホールのステージ。だからホールでの有志発表はすごく人気で、抽選で発表者が決まるほどなんだって。

そこまで説明してくれた春ちゃんが、私に言ったのだ。

「ぺけちゃん、ライブしましょう!!!」

それまでどこか他人事のように話を聞いていたためか、私はその言葉に唖然としてしまった。しかし一方の春ちゃんはとても意気込んでいて、私が「イエス」と言うのを今か今かと待っている。
春ちゃんの熱い視線を感じつつも私はうつむき、手元の卵焼きを見つめた。

ライブ…か。
ちょっと想像してみる。
まぶしいライトの中、私が歌い、踊る?
ステージの中央に立ち、たったひとりでみんなの視線を浴びる?
以前の私なら羞恥心に負けて、きっとそんなことは無理だと言っただろう。
私なんかにそんなことができるはずがないって。私にそんな華やかな場所はそぐわないって。
しかも春ちゃんは、ホールステージでの発表でなくては駄目だと言った。
私の歌をみんなに聞いてもらう絶好のチャンスだと。一番華やかな場所で、私に歌ってほしいんだと。

「ふたりで最高のステージを作り上げましょう!」

『ふたりで』
その言葉がくっきりと私の中に残る。

そう、今の私はひとりではない。春ちゃんがいる。
春ちゃんの歌を私は歌いたい。みんなに聞いてもらいたい。私も春ちゃんと同じ気持ち。自分のパートナーの素晴らしさをみんなに知ってもらいたいんだ。

私の中で、答えは出た。
私は顔を上げた。


「…うん、出ようか。有志発表」

変わらず熱い春ちゃんの視線を受け止め、言うと、たちまち春ちゃんの表情がぱああっと明るくなった。

「ぺけちゃんならそう言ってくれると思っていました!」

実は、どんな曲をぺけちゃんに歌ってほしいか、もういくつか考えてあるんです!
楽しそうにはしゃぎながら話し始める春ちゃんの様子に、私の口元もふっとほころんだ。

ライブに出ると決めて、こうして曲や演出について春ちゃんと話し合い考えていると、自分の胸がわくわくとしていることに気付く。こんな曲を歌いたい。こんなステージにしたい。衣装はどんな感じがいいだろう…と、どんどんアイデアが溢れてくる。最高のステージにしたい。歌でみんなを笑顔にしたい。ライトを浴びて、ステージの中央で歌いたい…。私は自分がステージに立つときを楽しみにしているのだ。これはきっと、アイドルとしての私が育ってきた証拠。

私はアイドルになると決めた。今の私がどこまでの実力を持っているのか、自分の力を試してみたい。これは私が成長するための階段のひとつだ。ライブだなんて緊張するし、簡単なことではない。でもこれを乗り越えたら、私はひとまわり大きくなれる。頑張ろう。将来アイドルになったら、学園のステージなんて小さいと思えるくらいの場所に立ちたいから。





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