tokiya/long
□Crescent moon, crescendo mind
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「まずいですね…」
軋む体を抱え、私はつぶやいた。
体のあちこちが痛む。長時間の戦闘で、肉体はもうとっくに悲鳴を上げています。夜になり、空には細い三日月が光っている。今が何時ごろなのかもわからないまま、がむしゃらに早乙女さんに立ち向かい続けて…タイムリミットまで、もうそれほど猶予はないはずだ。
「どうすべきか…」
半ば途方にくれながら、それでもこの状況の打開策を探す。いくつか作戦を立ててみましたが、早乙女さんにはまったく効果がありませんでした。予想以上に早乙女さんは手強い。ただ正面からぶつかっていっただけでは、どうやっても勝てない…。
唇をかんだ。
「おや、もう終わりですカー?」
私たちの衣服はあちこち破れ、体は傷だらけ。息はあがり、疲労の色も濃い。
しかし疲弊しきっている私たちとは対照的に、早乙女さんは変わらずピンピンしている。
何度挑んでも早乙女さんに傷ひとつつけられない。触れるのすらやっと…。
私たちの間にはあきらめの雰囲気が漂い始めていた。
「この程度の攻撃では、私に勝つことなどできましぇん!ホラホラ、鍵はココですよ〜ん」
早乙女さんが懐から取り出した鍵をひらひらと揺らす。
「…くそっ!」
早乙女さんの安い挑発に乗り、音也が飛び出した。性懲りもなくまた正面からぶつかっていく。
「だあぁぁぁあっ!!」
「ほっ」
案の定その拳は早乙女さんに軽々と受け止められてしまう。
「音也!」
まったく、何度繰り返しても結果は目に見えているでしょうに…!むやみに挑むだけ体力の無駄です。
「…!」
しかし、今回は今までとは違った。それまでは簡単に弾き飛ばされていたにもかかわらず、音也は懸命に足を踏ん張り、早乙女さんの拳を受け止めていた。
「むむっ」
早乙女さんも少々驚いたようで、サングラスの奥で目が見開かれたのがわかった。
「…あきらめるもんか」
音也がぼそりとつぶやき、そして叫ぶ。
「××を解放できない限り、あきらめるもんかー!!」
「…!!」
その言葉に私ははっとした。
音也は、○○さんのために戦っている…。
その事実が私の中の何かに火を付けた。
「…そうだよ」
翔が口を開く。
「××が待ってるんだ…俺らがあきらめるわけにはいかねえ」
四ノ宮さんも立ちあがり、拳を握りしめる。
「ぺけちゃんは今頃、暗い中閉じ込められて一人ぼっちでいるはずです!早く助けなくっちゃ」
「そうだね、シノミーの言う通りだよ。俺たちがレディを助けなくちゃね」
「ああ…あきらめるなどという選択肢は、俺たちにはない」
レン、そして聖川さんがその後に続く。どうやら音也に触発されたのは私だけではないようだった。
「イッチーはどうするんだい。あきらめるかい?」
レンが私に問いかける。その口元には薄らと笑みが浮かんでいた。
私が何と答えるかわかっていて訊いているのだろう。
「…そんなわけないでしょう」
そう言いレンを見据えると、レンは「やっぱりね」というように笑みを深めた。
早乙女さんが本気で爆弾を使い○○さんをライオンの餌食にするとも思えませんが、自分の言ったことを違えるとも思えない。よって何らかの危険性はあると考えた方がいい。彼女を助ける以外の選択肢はない。
脳裏に○○さんの笑顔が思い浮かぶ。
この勝負をあきらめるわけには、いかない。
「むうう、てい!!」
「くっ」
早乙女さんの攻撃を受けた音也が退いた。
ずざざざ、と音を立てて着地すると、私たちを振り返り見る。
そして問うた。
「もうデビューなんてどうでもいい、俺は××を助けたい!みんなも、そうだろ!?」
その言葉に私たちは顔を見合わせた。
そうだ。
思えば、最初からデビューの件など私の頭にはなかったのかもしれない。
○○さんを助ける…そのことしか考えていなかった。
そしてそれがおそらく私たち全員に言えるであろうことは、皆の顔を見ればわかる。
私たちは互いの顔を見、うなずき合った。
「皆さん、私に考えがあります」
早乙女さんに勝つために私たちがすべきこと。
現状を打開するための策が、ひとつだけある。
「おそらく、これは全員一致のところだと思いますが…」
私は自分の作戦を皆に話し始めた。