tokiya/long

Crescent moon, crescendo mind
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「ん………」


優しい風が頬を撫でていくのを感じながら、私は目を覚ました。
空が…青い。白い雲。その下にたたずむ木々たち。そして横に視線を映すと、私の目の前には…もふもふの…。

「ガウ」

………ライオン…?

「ガウー」

……ライオン!?!?!?
驚いて私は飛び起きた。

「ガルル」

おはよう、と言わんばかりに首を傾げ、こっちを見ているライオン…。本物だ…。
なんでここにライオンが?
大きい…。それにしても、綺麗な毛並み。
私がまじまじとライオンに見入っていたら、突然後ろから声がした。

「お目覚めですネー!」

「わっ!」

振り向くとそれは学園長だった、相変わらず気配がない…。
あ、そうだ、私…確か学園長に担がれて、そのまま気を失ったんだった。
寝不足だったからか、よく眠っていたらしい。日が高くなっている。

「…あれ?」

そこで私は気がついた。ライオンと私を隔てる強固な柵に触れる。
そんなに狭くはない。2畳ほどの広さに、手を伸ばせば届くくらいの高さの…檻。
そしてそこには、大きな錠が…。
私、閉じ込められてる?

「…Miss.○○、成長しましたネ」

そんな私を見て、学園長がそう口を開いた。

「春にあの丘で出会った頃よりも、アナタはアイドルとしてずいぶん大きくなりましタ」

どこかしみじみとそう言う学園長…。私の胸はじーんと熱くなった。
あれから学園長とお話するような機会はなかなかなかったけど、学園長は私のことをちゃんと見ていてくださったんだ。そして、認めてくださっている。ああ…すごくうれしい!

「そして類は友を呼ぶ。アナタの周りにはどうやら逸材がそろっているようですのーで、今回は彼らの実力を試させてもらっちゃいマース」

学園長はふふふと人の悪い笑みを浮かべた。私の周りの逸材、と聞いて、すぐさま一ノ瀬くんたちの顔が思い浮かぶ。

「今回、奴らが選び得る選択肢は3つある。その中に正解はひとつだけ…もしも間違った道を選んだその時には…私がこの手で彼らを切り捨てマース」

そう言う学園長の顔は真剣そのものだ。
音也くん、レン様、翔くん、なっちゃん、真斗くん…。
学園長は一ノ瀬くんたちに何をやらせるつもりなんだろうか?

「そして、まだアナタが手に入れていないモノがありマース。アナタはまだまだ成長できるはずデース!」

学園長がチッチッチと指を振る。

「私がまだ手に入れていないもの…」

それを見つけて乗り越えれば、私はもっと成長できる。そういうことだろうか。私に足りないものなんてたくさんあると思うけど、学園長が言う「私に足りないもの」はなんだろう?
考え込んだ私に、学園長は豪快に笑ってみせた。

「ま、そのうち嫌でもわかりマース。今はその籠の中でおとなしくしていてくだサイ!」

「これが、私に協力してほしいとおっしゃっていたことなんですか?」

朝、学園長が『私に協力してほしいことがある』と言っていたのを思いだした。
この中でじっとしていればいいのだろうか。

「そうデース。ただし、アナタがそこから出られるかどうかは彼ら次第ですけどネ」

「彼ら…」

彼らとはまさに一ノ瀬くんたちのことに他ならないだろう。じゃあ私がこの中にいるのは何のためなのか。私がここから出られるかどうかが一ノ瀬くんたちにかかってるって…どういうこと?

「おおっとぉ」

私が数々の疑問を吐きだそうとしたとき、学園長が自分の時計を見て私に背を向けた。

「いけましぇん、長居しては見つかっちゃいそうですネ。じゃ、ワタシはこのへんで。ばいちゃ!」

「え、あ、え!?」

見つかるって誰に?どこに行くんですか?それに、ライオンは残していくんですか?
積み重なって行く疑問に目をハテナにさせていたら、学園長が何かを思い出したように立ち止まった。

「あ、そうデシタ。ほいっとな」

そしてこちらに何かをぽいっと投げて寄こし、今度こそすさまじい速さで走り去って行った。
…嵐のような人だなあ…。
それにしても、最後に何を投げていったのだろう。
地面を見ると、何やらミニサイズの液晶画面のようなものと、その側に小さく折りたたまれた紙が落ちていた。そのどちらも檻の外にある…。
ちらりと近くにいるライオンを見上げた。
何でこの子がここにいるのかはわからないけど、ライオンは肉食。檻の外に手を伸ばしたら…?

「………………。」

ライオンも私をじっと見ていた。
ライオンと見つめ合う。
そこで私は話しかけてみた。

「…ねえ、取ってもいい?」

するとライオンは興味がなさそうにふいっと目を逸らし、のっそりと寝そべってしまった。
どうやら許可が下りたらしい。

「ありがとう」

ライオンにひとことお礼を言って、私は精一杯手を伸ばしそのふたつのものを引き寄せた。
まず、この紙は何なんだろうか。
不思議に思いながら、私はかさりとその紙を開いてみた。






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