書庫1

□携帯依存症
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人間はなんと脆いものか。

安らかに寝ている彼女を見ながら、私は考える。

聞くところによると、最低でも年に1、2回は誰もがこうなるらしい。

入ってきた細菌を殺すために体温を上げている状態。

いわゆる、発熱だ。

そしてそれは風邪というもののオマケのようなものらしい。

しっかりご飯を食べ、薬を飲み、いつもより沢山睡眠を摂れば治るという。

見ても触っても、確かにいつもと違うのは判るが。

「…うぅぅ」

静かに寝ていると思ったら、いきなり呻き声をあげ始めた。

熱のせいで悪夢でも見ているのか。

「おい」

とりあえず肩を揺らして起こしにかかる。

いつもはこんな生ぬるい起こし方じゃちっとも起きやがらないが、今日は起きた。

奇跡だ。

「…………」

寝た状態のまま、彼女は私を見つめる。

頬が紅潮していて、表情も至極病人らしい。

「呻いていたが、悪い夢でも見てたのか?」

「………」

私の問いに、ゆっくり首を横に振って否定の意を示す。

悪夢でないなら何で呻いていたのだろうか。

「…水でも飲むかい?」

「………」

また同じように首を振る。

いつもは五月蝿いくらいなのに、今日はうんともすんとも言わない。

静かなのは悪くないが、こういうのも風邪の症状なのだろうか。

「ん…」

通常の2倍の愚鈍さで、彼女はもぞもぞと体を起こす。

どこに行くのかと思ったら。

「……熱い。寝てろ」

私の首に腕を回して抱きつき、肩に顔を埋めた。

ここまで近いと流石に熱を感じとれる。

「身体が冷えるぞ」

「……うぅ、気持ち悪い…」

「だから寝てろって言っているだろうが」

背中を支えてゆっくり布団に帰すが、今度は手首を掴んで離さない。

なんだこいつは。

これだけ甘えられるなら案外元気なんじゃなかろうか。

「私は嫌でもここにいるから、寝ろ」

仕方なく、手を繋ぐ。

「…それは哀しいな……」

彼女は呟くように言って、手を強く握り返す。

「…私が嫌いになったら、…いつでも言って」

嫌いになったら。

それはいつだろう。

今では、ないな。

しかしまあ、好きかと問われれば。

それはまた、別の話だと思うが。

……まだいるさ。

君は哀れで、誇れるところなどないどうしようもないやつで。

しかも筋金入りの寂しがり。

だからきっと。

私がいなくなったら、泣くんだろうから。





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