世界一&純情
□どうしてもあわないのだ
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「あっ、待って待って乗りまーす!!」
やっと仕事も終わって帰るのにエレベーターが閉じようとしていたので、私は走って中に乗り込む。
「ハァ、ハァ……セーフ!!待ってくれて、ありがとうございま……ゲッ横澤!?」
下に向かう振動がして下りるのを感じながら、息切れを整えてエレベーターにいた人に礼を言って見れば、そこには一番会いたくない人物がいた。
「フンッ…随分な言い方だな。人が待ってやったものを」
横澤は腕を組んで私を見下ろしてくる。
こいつはなんでこう言う言い方しかできないのかしら。
「アンタが乗ってるって知ってたなら私はこれに乗らなかったわよ。あーサイアク!!」
「俺だってお前だと知っていたら乗せなかったかもな」
カッチーン!!
ムカつく〜(*`Д´*)
「そうしてくれてよかったわよ!!」
横澤とは反対の壁側に身を寄せて、エレベーターが下に着くのを待つ。
横澤は高野の大学の時の友達で、高野と渡り合える数少ない人物で丸川では暴れ熊と呼ばれてるとか……プッ似合いすぎ。
やっと着いたエレベーターを降りて横澤の方を首だけ振り向いて、
「待ってくれてドウモ!!なるべくなら会いたくないわね!!」
私はそう言って夜もそこそこで静まり返ってるロビーを早足で玄関に向かう。早くコイツから離れないと何を言うか分からない。
「……高橋。お前、なんで俺をそんなに嫌うんだよ。大学の時からそうだったよな」
私の後ろから声をかけてきた横澤に私はピタリと足を止めた。今さらそれを聞くのか、コイツは……。
私は振り返って横澤を睨み付ける。
「“なんで?”……言っとくけど、アンタが高野の『お友達』の枠で止まってくれていたら私も仲良くしていたかもね。でもアンタはその枠から出てしまった。あの頃の弱ってる高野につけこんでヤっちゃったのが腹立つのよ。それで今は同じ仕事場の仕事仲間で友達で、高野の想い人にキツくあたってるアンタが嫌い」
睨んでいた横澤の眉間の皺が寄る。
「つけこむだと?」
「私から見たらつけこんでるわよ。
大学の時の荒れようを知ってるアンタの気持ちも分からなくもないけど、私はアンタが知らない高野を知ってる。……“嵯峨”と律くんが過ごした時間を知ってるわ。だから私は彼と高野が付き合えばいいと思う」
「また政宗が昔のようにならないと言い切れないし、あいつは自分が政宗に何をしたのか分かってないんだぞ!!」
横澤の言葉に私の怒りもさらにヒートアップする。今まで言わなかった分、全てを言ってやろうと横澤に数歩近づいた。
「そこでアンタが律くんに何か言うのはどうなのって事よ!!彼らの問題にアンタは入りすぎてる。アンタのそれは友達としてなの?それとも高野を好きだから取られたくない?」
「高橋、お前は!!」
私の最後の言葉に横澤が声を荒げたが私はそんな事で怯む女じゃない。というか、図星なんじゃないか。
「私は今までアンタにハッキリと言わなかったけど、今日言うわよ。高野の事を想うなら諦めなさい。高野の心は律くんだけしか想ってない。10年前も大学の時も、今も…」
そうよ、アイツの心は10年前から何も変わらないし変わってない。
変えられないのよ。
どんなに横澤が高野を好きだろうと高野は律くんにだけしか向かない。
横澤は私を忌々しそうに見て舌打ちした。
「そういう貴様も政宗の事が好きなんだろ!!」
………………待て、どうしてそうなった。どっからそういう風な発想になったのか私に分かりやすく話して欲しいよ。
怪訝な顔をしていれば、横澤はそれを正解なのかと勘違いしたようで、鼻で笑いやがりましたよ。
検討違いな事で勘違いをしている横澤に腹が立つのを通り越して、殺意を覚えそうになった。
「はぁ?…私が高野のを?
あり得ないわよ。アイツとは本が好き仲間で高校からの腐れ縁なだけあって、なんか手の掛かる子供を持つ母親気分よ。私はアンタと違うの。次にそんな事言ったらアンタの×××を××××して××××してやるんだから!!」
放送禁止用語連発してやれば、横澤の顔がひきつった。ざまぁ見やがれっての。
「…お前ら何やってんだよ」
「政宗……」
そこで先ほど上がっていったエレベーターで下りてきた高野が私と横澤を見て呆れ顔で見てきたので、私はフンッと横澤から距離をおく。
「別に。横澤サンとは今度の新刊の部数の事で話してただけ。なに、アンタも帰り?」
「あぁ、まあな」
今の話は聞かれてなかった事にちょっと安心した。横澤もムスッとしてるけど内心ホッとしてるはずだ。
「そっ。じゃあ私は寄るとこあるからここで別れるわ。お疲れー」
「お疲れさん。そうだ高橋、この間借りた本面白かった。今度返す」
「了解ー。別にいつでもいいからね」
高野達を置いて先に会社から出た。陽も完全に落ちた道を歩き始める。
私はアイツがキライ。
高野の全てを知ったような顔をして…。それで律くんを嫌うんだから。
キライよ。
人の想いを切らそうなんて……。
20110720