世界一&純情
□酒は飲めども飲まれるな
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【酒は飲めども飲まれるな】
「夏希しゃん、俺は頑張ってるんですよぅ」
「うんうん、頑張ってるね。頑張ってるのは分かったから歩こうか」
あれからお酒を飲ませた私は律くんの酒癖の悪さを知ってしまい、フラフラの律くんを連れて律くんの家に向かっている。
カラミ酒グチ派だったとはね(汗)
次の時は程々にさせとかないと…。
なんとか自力で歩いてくれるので、どこか行かないように手を引いて歩いていた。
良かったよ、事前に律くん家を聞いておいて。
駅からそんなに離れていないマンションで、オートロック付き。律くんに自動ドアを開けてもらいエレベーターに乗り込む。
お店を出てからは始終フニャフニャと笑って愚痴を溢している。まぁ、店での勢いよりいいけどね。
エレベーターが目的の階について降りながら律くんを誘導。
二つ歩いた先の表札に『小野寺』を見つけて立ち止まる。
「ほーら、鍵だして。お家の玄関開けてね」
「はぁーい」
律くんは手を上げてから鞄に手を突っ込んで探している。
「返事はいいのにどんだけ絡み酒なんだか…」
ようやく鍵を見つけ開けてもらい中に入る。
私もお邪魔しますと言って靴を脱いでフラフラしている律くんを引っ張る。
「はい、律くん。とりあえず、コートは脱いでね」
ちょっと洗濯物や本が散乱するリビングを抜けてベッドまで来れば律くんはボスンッと倒れこむので、コートを脱ぐように促す。
「夏希さぁん」
「なに?」
コートを脱がせる事に成功して一息ついていた所で律くんが呼んだので聞いてみる。
「俺は高野しゃんが嫌いなんです!!高野しゃんは俺の中にズカズカ入ってきてグチャグチャにして……」
大の字になってトロンと眠そうにしている律くんはそれでも言いたい事があるようだ。
「うん、それで?」
私はベッド脇に腰かけて続きを待つ。
「忘えたのに…やっと忘れたのにぃ、またあの人が心を埋めつくしそうでイヤなんれす」
顔を腕で隠している律くんに私はその頭を撫でてやる。
「そっか。律くんは高野の事が嫌いなの?」
「………分から、ない、んです…あの人がいると……目で追ってしまし……なんかモヤ、モヤす、る…」
ウトウトしていた律くんはそれを言って眠りに入ってしまった。
「それを好きっていうんじゃないかな…」
私は律くんに上掛けをかけてリビングに向かい、自分の鞄から手帳を出して適当に紙を破り律くん宛に伝言を書いておく。
『おはよう律くん。
家の鍵は掛けて郵便受けに入れて置きます。
二日酔いに気をつけてね
夏希』
私はそれをローテーブルに置いて玄関に向かう。
鍵をかけて郵便受けに鍵を落としてからヨシッと頷く。
律くんの心は高野に向いているけど、彼はそれを否定しているみたいだ。
ホントに10年前何があったというのか……。
私も帰ろうとエレベーターに向かう途中…さっきは律くんを連れていていっぱいいっぱいで気づかなかったがエレベーター側のお隣の表札を見て思わず立ち止まってしまった。
いやいや、きっと偶然だ。
そんな事ない…隣がアイツだなんて。私は認めてやらんぞ。
ピュアな律くんの貞操が守られん!!
というか、律くんは知ってるんだよね。むしろ互いに知っているんだよね!?
高野のヤツ、この事言わなかっただろ。あームカツクな(イラッ)
私はこの事実を受け止めたくなくて、そそくさとマンションを後にした。
20110718