世界一&純情

□さぁ、飲もうじゃないか!!
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今日分の仕事を終えて、エレベーターホールに向かえば、そこにゲッソリと項垂れてるエメ編の新人君が立っていた。

「律くんお疲れー。いま帰り?」

ポンッと肩を叩いて声をかければ、律くんは疲れた顔で振り返った。

「お疲れ様です。高橋さんも上がりですか?」

「うん、そう。そうだ、律くんこれから何か予定ある?」

私が問いかければ律くんは首を傾げた。
なんか、そんな動作が幼く見えてカワイイな。

「いえ、特にないですけど…」

「じゃあ、飲みに行こう!!」

目を丸くする律くんの腕を掴んで、上がってきたエレベーターに乗り込んだ。
色々聞きたい事を聞いてみようと思います!!





「いやー、仕事終わりのビールは旨いわね!!」

あれから律くんを連れて、駅前の居酒屋さんに入った私は生中のジョッキを半分まで飲み干して、仕事の疲れを吹き飛ばす。律くんもビールを少し飲んでからジョッキを置いた。

「はぁ。高橋さんはよく「夏希」…はい?」

途中で遮られた律くんは何の事か分からないようで私はニッコリ笑ってやる。

「夏希でいいわ。高橋って丸川に何人かいるから名字で呼ぶと誰か分かんなくなるのよ。同じ部署とか親しい人には名前で呼んで貰ってる」

「そういえば、前の所では佐藤さんが4人もいましたね」

「アハハッ、それも大変だよねー。だからさ、私の事は夏希って呼んでよ」

ビールをグイッと飲めば律くんが少し困ったような表情で、

「じゃ、じゃあ夏希、さんで…」

そう言った後、顔を赤くされればこっちも照れるだろうが。
この子は私をどうしたいんだ…(どうもしないからby作者)

「ん、それでいいよ」

フフッと笑えば律くんも表情を柔らかくする。
やっぱり律くんってカワイイなぁ。

「そういえば、律くんさー」

「はい?」



「高校の時、高野と付き合ってた?」

「ブーーッ、ゲホッゴホッ」

明らかに不意をつかれた様で、ビールを吹いた彼は噎せながらも、汚れたテーブルをおしぼりで拭いている。
…なんか律義だな。

「律くん大丈夫?」

「なななななんでそうなるんですか!?」

拭き終わった律くんは顔を真っ赤にして視線をさ迷わせているけど……動揺しすぎじゃない?

「あー、今まで言わなかったんだけどさ。私、高野や律くんと同じ高校行ってたんだよ」

「ええぇっ!!?」

「ちなみに高野とは同じクラスだったの」

「はい!?」

驚きすぎて呆然としてしまっている律くん。そんなに驚かれるとは思わなかったな。

「だから君の事も知ってる。ってか最近思い出したよ。図書室によく居た子だよね。高野といるのを見かけた事ある」

「えぁっ……うっ…」

顔を真っ青にしている律くんに私は苦笑する。

「ははっ、律くん驚きすぎ」

「いやだって、驚きますよ!!夏希さんが同じ学校だったなんて…」

「まぁ分かるけど。私も律くんと10年前の子が一緒だなんて最近まで気づかなかったもん。それにしてもまさかあの子だとはねー」

染々と言えば、律くんは顔を反らして目を細めた。

「……俺はもう高野さんとは関係ないんです」

もう思い出したくないと言う顔をされてしまったが、私は漬物を一つ咀嚼してから律くんに視線を向ける。

「私さ、よくエメラルドに顔出してるじゃない?だからか高野と律くんってなんかギクシャクしてる感じがするんだよね。特に律くんの方が。」

「そんな事……」

否定しようとしているが次の言葉が出てこない彼に私はまた言葉を続ける。

「私さ、10年前の事詳しくは知らないんだよね。あの頃、気づけば高野はまた図書室で一人でいたし、話を聞いても知らないの一点張りだったし…。ようやく高野から聞きだしたのもイマイチ意味が分からなかったし。差し支えなければ聞いてもいい?10年前何があったのか」

彼は俯かせてた顔をそっと上げて、なんで知りたがるんですかと呟いたのが聞こえた。

「んー、お節介だとは分かってるけど、やっぱり友達が心配だから…かな。いや、アイツと『友達』って言うのもどうかと思ってるけど、理由が欲しければそれが理由」

黙っている律くんに私はジッと見てクシャクシャと髪を撫でてみた。ハッと顔を上げる律くんと視線がぶつかり合うとまた俯いてしまった。

「まっ、イヤならいいけどね。私も無理矢理聞きたい訳じゃないし」

私の言葉に律くんは多少の酔いからか呟くように話し出した。
10年前、律くんと高野は付き合っていて、鼻で笑われた事がショックで別れた事。
それがあって学校に行く事ができなくなり留学した事。
それは彼にとってとても辛く悲しい出来事になったそうで………。
けど、忘れかけていたのに丸川で再会した高野に好きだと言われているとか。

「そっか……辛いこと話してくれてありがとう」

「いえ、なんか話したら少し楽になりました」

「そう?そう思ってくれたなら良かった」

はにかんだ様に笑う律くんを見ていたら高野の事を思い出してイラついた。
こーんなカワイイ子の思いを踏みにじったかもしれないなんて信じらんない。しかも好きにさせるって、アンタどんだけ自分に自身あんのよ。……でもアイツの大学の時の荒れっぷりも知ってるからなぁ。
ってか高野と律くんってまだ想いあってるんじゃないのか?
律くんは否定してるけど、今恋人いないし。今日はこれ以上追求しないでおこう。

「律くん、今日は飲もう!!高野の事なんて忘れてさ!!」

ビールやチューハイを頼み込むと律くんに飲ませた。


この後、酔っ払って絡み出した律くんを連れて律くんの自宅まで返したのだが、いや大変だった。


それはまた別の話。



20110714

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